液体クロマトグラフィー分離と質量分析検出の高い能力により、最も複雑なサンプルでも分析できます。
LC/MS には、以下のような特長があります。
LC/MS アプリケーションは、低分子(代謝物、炭水化物など)の分析から、高分子(タンパク質、ペプチド、RNA/mRNA など)の研究まで多岐にわたっています。LC/MS で広く使用されるエレクトロスプレーイオン化(ESI)は、高分子を多価のイオンにイオン化して、質量荷電比(m/z)を質量分析計の測定可能な質量範囲内に効果的に収めることができます。このため、LC/MS は、GC/MS では測定できない高分子の分析に適しています。
例については、LC/MS アプリケーションのタブをご覧ください。
最適な分析装置を選択するには、分析対象物の分子量と極性、およびアプリケーションが主にターゲット分析であるのか、または未知化合物の測定であるのかを考慮してください。
LC/MS システムは、紫外線(UV)検出器では分離および検出できない化合物を検出して測定できます。例えば、医薬品製剤の不純物分析では、化合物が共溶出したり、UV 吸光度が低かったりすることがありますが、シングル四重極質量分析計から得られる質量分析の情報により、分析の信頼性を高めることができます。さらに、質量分析計では、特定の化合物や修飾を同定して確認することができます。
質量検出を使用することにより、UV 吸収検出で得られない情報が得られます。この例では、質量分析計により、UV 検出器では検出されなかった化合物が、質量スペクトルにより新たに見つかっています。
シングル四重極 LC/MS システムには、イオン源で生成された分子イオンやフラグメントイオンを質量選択する四重極が 1 つ含まれています。トリプル四重極 LC/MS/MS システムには、2 つの四重極に加えて、LC/MS/MS 分析を可能にするためのコリジョンセルが 2 つの四重極の間に配置されています(下の画像を参照)。
LC/MS/MS は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)や、2 つ以上のフラグメンテーションとフィルタリングを行う選択性が高い測定モードのことを指すことがあります。MRM 時には、最初の四重極で質量選択が行われ、コリジョンセルで選択されたイオンに対してフラグメンテーションを行い、2 番目の四重極でさらに質量選択が適用されます。
また、LC/MS/MS は、LC/Q-TOF システムでの衝突誘起解離(CID)のことを指す場合もあります。LC/Q-TOF の LC/MS/MS では質量分析(MS)の 2 番目のステージが飛行時間型検出器(TOF)となります。
シングル(またはトリプル)四重極質量分析計は、整数質量を提供します。(低分解能)飛行時間型(TOF)質量分析計は、精密な質量情報を提供することができます。(高分解能)
TOF 質量分析計は、高い質量分解能と質量精度により、検出されたイオンの元素組成を高い精度で確認することができます。分解能が高い(質量誤差が小さい)と、予想される分子式の数が絞られることで、より明確で正確な結果が得られます。
シングル四重極と TOF 質量分析計の分解能を、スルファクロロピリダジンの分析で例示します。
四重極飛行時間型(Q-TOF)質量分析計は飛行時間型(TOF)マスアナライザに四重極とコリジョンセルを追加したものです。Q-TOFは、四重極、ヘキサポールコリジョンセル、飛行時間型により構成され、MS/MSスペクトルを得ることができます。
Agilent Jet Stream イオン源で採用されているサーマルグラジエントフォーカシング技術は、さまざまなアプリケーションにおいて、エレクトロスプレーイオン化の感度が向上します。高感度 MS 向けのこの技術は、高温に加熱された窒素により液滴の脱溶媒とイオンの生成を促進して、シグナルの増強とノイズの低減をもたらします。多くの分析対象物で最高の感度を実現しており、標準的なエレクトロスプレーイオン化(ESI)と比較して、5 倍以上のレスポンスをもたらします。
スペクトルライブラリは、高分解能 LC/MS システムで測定された質量スペクトルを、リファレンスの標準スペクトルと比較(または、照合)する時に用いられるリファレンス質量スペクトルを収載したものです。スペクトルライブラリには、分子式、質量、化合物識別情報(CAS、InChIKey など)のような、関連する化合物と化学構造情報が含まれています。
実際には、取り込んだスペクトルとライブラリスペクトルとの間でライブラリ一致スコアが計算され、両者の一致度合いを示します。このスコアが高いほど、一致の信頼性が高くなります。ライブラリ一致スコアは、未知化合物の推定を支援し、化合物の同定プロセスに信頼性をもたらします。TOF または Q-TOF LC/MSとスペクトルライブラリを使用することにより、1 回の分析で農薬などの数千のターゲット化合物のスクリーニングを行うことができます。
博物館の館長が各展示物の完全性を徹底的に評価するように、アジレントでは厳格な精査プロセスでキュレートして品質を担保した化合物データベースやスペクトルライブラリを販売しています。
Agilent ChemVista ライブラリマネージャソフトウェアは、包括的なスペクトルライブラリ管理が行えるツールを提供しています。 複数の情報源(PubChemなどのパブリックリソースなど)にある化合物、リテンションタイム、および質量スペクトルを 1 か所に統合して、MassHunter データ解析ソフトウェアでの未知化合物の同定ワークフローを効率化することができます。
ChemVista には、広範囲にわたる精査済み LC/Q-TOF ライブラリおよびデータベースが含まれており、食品分析、環境、抽出物および浸出物(E&L)、法中毒学のアプリケーションに利用できます。
従来、質量分析システムの感度は、指標となる化合物のシグナルとノイズの比率、すなわち S/N 比を指標として定義され、使用されてきました。しかし、この手法では、S/N 値の計算方法によって誇張されることがあるため、誤った判断を招く可能性があります。機器検出下限(IDL)は、そのシステムの検出限界と精度をより高い確度と信頼性で評価する指標です。指標となる化合物のシグナルがノイズでないことを統計的な手法で示します。
ここでは、IDL を詳しく紹介するとともに、その計算方法と、IDL を使用した LC/MSD、GC/MSD、トリプル四重極 LC/MS、GC/MS システムの性能の評価方法について説明します。
シングルまたはトリプル四重極 LC/MS で測定された多くの化合物では、レスポンス曲線において直線の領域が存在します。低濃度域では検出限界に近づくにつれてレスポンスの直線性は低下し、また、高濃度域でも検出器が飽和しそうになることで直線性は低下します。一般的に、全ての濃度域での直線範囲は 3~4 桁になりますが、化合物によってはさらに広い範囲が得られる場合もあります。一般に、トリプル四重極機器は、TOF/Q-TOF 機器よりも広い直線ダイナミックレンジを示します。
ハイスループット質量分析(HTMS)は、数百または数千のサンプルを短期間で分析する必要がある場合に有用です。スループットを制限する要因は、多くの場合、MS 分析のではなく LC のクロマトグラフィー分離です。LC の分離を高速化するために、適切なメソッドを選択する(グラジエント、流量、カラム充填剤など)ことにより、分析時間を短縮することができます。ただし、従来の LC/MS ではサンプルを連続的に分析するため、質量分析計がアイドル状態になり、十分に活用されない可能性があります。
MS をより効率的に使用する簡単な方法が 2 つあります。
一つ目の方法は Agilent StreamSelect によって効率化が行えます。StreamSelect は、従来の LC/MS と同じ技術ですが、1 台の質量分析計に 2 台、3 台、4 台の同一の独立した LC システムを接続します。それぞれの LC の注入タイミングをずらしてオフセット注入を行うことにより、最大 4 つの LC のクロマトグラフィー分離を並行して行うことができます。
例えば、4 分の分析時間のメソッドでは、目的のピークが溶出する前後の 1 分間しか必要がないことがあります。この例では、4 分の分析時間のうち、1 分間の MS 測定しか必要でないため、クロマトグラフィー分析のかなりの部分には、目的のピークが含まれていません。従来の LC/MS では、4 分間で 1 回の分析が完了しますが、4 ストリームの StreamSelect システムでは、同じ 4 分間で 4 回の分析を完了できます。これは、1 分あたり 1 サンプルを分析していることに相当し、スループットが 4 倍向上したことになります。