液体クロマトグラフィー/
質量分析法の基本

液体クロマトグラフィー/質量分析法

液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)は、液体クロマトグラフィーの分離能力と、質量分析計を検出器とする直接的な質量測定を組み合わせた分析技法です。液体クロマトグラフィーは、広範な化合物を分離することができ、質量検出器は、分子量、構造、同一性、量、純度に関する有用な情報を提供します。

ここでは、LC/MS 機器の代表的な部品とその動作の基本原理について説明します。

液体クロマトグラフィーの仕組み

液体クロマトグラフィー(LC)は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)としても知られており、液相に含まれる化合物混合物を分離します。サンプルは前処理されて、メタノールなどの適切な溶媒に溶解され、クロマトグラフィーカラムを通してポンプで移送されます。

逆相 LC では、カラム(固定相)に非極性物質が充填され、溶媒(移動相)は極性物質です。溶液中の分析対象物の分子は高圧(約 20~120 MPa)でカラムを通過して、固定相と相互作用します。疎水性化合物は、カラムに長く保持されます。リテンションタイムにより化合物が分離された後、オルソゴナルな検出器へ進みます。

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LC を質量分析(MS)とともに使用する理由

LC システムには、さまざまな種類の検出器を接続することができます。最も一般的なのは、吸光、蛍光、屈折率、蒸発光散乱、および質量分析を利用した検出器です。

  • 通常、紫外線(UV)検出器は、サンプル中の分析対象物が著しい UV 吸収性を有する場合に、その分析対象物の量を定量するために使用されます。
  • 質量分析は、固有のオルソゴナルな(直交した)情報を提供します。これにより、化合物に発色団が存在しないか、またはクロマトグラフィー分離が不完全なために UV 検出ができない化合物でも高い再現性で定量しながら、分析対象物を推定することができます。

画像に示すように、UV 検出器では 2 つのピークしか検出されていませんが、サンプルには実際には 3 種類の化合物が含まれています。質量分析計は、UV 検出器で共溶出する分離化合物をそれぞれ検出することができます。

質量分析の仕組み

質量分析(MS)は、ガス相イオンとそのフラグメントの質量を測定するために使用されます。分析対象物はイオン化され、質量電荷比でフィルタリングされます。そして、イオンとして検出され、その質量が計算されます。

化合物が LC により分離された後、質量分析計で通過する最初の部分はイオン源と呼ばれます。

エレクトロスプレーイオン化(ESI)は一般的に用いられているイオン化技術であり、分析対象物が溶液中で分析対象イオンを生成し、質量分析計のインレットキャピラリーから質量分析計の内部に導入されます。LC 溶媒を、強い静電場と加熱乾燥ガスが存在する大気圧のチャンバにスプレー(噴霧)します。加熱乾燥ガスの熱エネルギーにより、分析対象物の分子から溶媒がさらに除去されます。

インレットキャピラリーを通って質量分析計に移動した後、レンズと呼ばれる一連の電極によって、分子イオンをイオン源から四重極マスアナライザ(またはマスフィルタ)へ導きます。

四重極は、4 つのロッドで構成されていて、直流電圧と高周波電場が印加されています。この組み合わせにより、条件に合った特定の質量(特定の質量電荷比または m/z 比)のイオンのみが、検出器に向かって四重極の電場を透過することができます。この機能により、ノイズが大幅に減少して、感度が向上します。

検出器は、質量スペクトルを生成するために、各指定時刻に到達したイオンのシグナル強度を記録します。この質量スペクトルのパターンは、フィンガープリントと同様に、化合物同定で使用できます。さらに、記録されたさまざまなイオン種のレスポンスは、定量分析のキャリブレーションに使用することができます。

LC/MS の利点

LC/MS は、UV 検出器と質量検出器の両方から得られたデータにより、選択性をさらに高めることができます。分析対象物は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)により分離され、リテンションタイムで分離された各分析対象物の個々のピークを示す UV クロマトグラムが作成されます。

そのリテンションタイムでの質量スペクトルも作成され、同じリテンションタイムで溶出する成分の m/z を確認することができます。質量情報があれば、リファレンスなしで分析対象物を推定することができ、質量により共溶出ピークを分離できます。

質量検出器は、他の LC 検出器と比較して、感度が高く、ほとんどの化合物に対して非常に特異的です。質量検出器は、(他の一般的な HPLC 検出器で必要とされる)適切な発色団が存在しない化合物を分析することができます。また、分離されていない(共溶出)分離ピーク中の成分を推定することもできるため、クロマトグラフィー分離で必要な条件が低減されます。さらに、質量スペクトルデータを他の LC 検出器のデータと組み合わせることにより、高い信頼性で化合物の推定、確認、定量を行うことができます。