液体クロマトグラフィー/
質量分析法の基本

ルーチン分析から創薬まで LC/MS で対応

質量分析は、以下の 2 つの質問に回答することができます。「サンプル中に何が含まれているのか?」、そして「サンプル中にどれくらいの量が含まれているのか?」です。必要とされる選択性と感度に応じて、異最適な LC/MS システムが異なります。

シングル四重極 LC/MS

シングル四重極 LC/MS

使いやすく、選択性の高いシングル四重極 LC/MS は、ルーチンの定量分析や品質管理アプリケーションに最適です。従来の UV 検出器などの LC 検出器の代替としてシングル四重極 MS を使用することで、いくつかの利点があります。シングル四重極 LC/MS は UV 検出よりも高感度です。そして、質量電荷比に基づいた識別が可能です。また、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)、キャピラリー電気泳動(CE)、イオンクロマトグラフィー(IC)といた他の分離技術と組み合わせることができます

質量分析計は、SIM またはスキャンモードで動作できます。測定モードのそれぞれの利点を示します。

選択イオンモニタリングモード(SIM)

SIM モードでは、MS パラメータは、いくつかの特定の質量電荷比(m/z)をモニタリングするように設定されます。この特異性により、検出器は各ターゲットの m/z の検出に多くの時間を費やすことができるため、感度が大幅に向上します。さらに、データポイント間のサイクル時間はスキャンモードよりも短いことが多く、最適なクロマトグラフィーピーク形状が得られることで、定量精度と正確性が向上します。

SIM では、サンプリングする m/z を事前に設定する必要があるため、ターゲット分析で使用されています。複数のターゲット化合物の分析では、化合物のリテンションタイムの溶出時間に合わせて、SIM イオンサンプリングの選択条件を設定することができます。

SIM は、定性分析に使用されることはほとんどありません。なぜなら、サンプリングされた m/z 以外の情報が得られないためです。

スキャンモード

スキャンモードでは、短時間(例:2 秒間)の間に、特定の質量範囲(例:50~2,000 m/z)のシグナルを検出します。このスキャン期間中、MS は全質量範囲にわたりシグナルを順次読み取ります。保存されたスペクトルは、全質量範囲で検出されたシグナルです。スキャンモードでは、設定した質量範囲のスペクトルが記録されるため、定性分析、またはすべての分析対象物が事前にわからない場合の定量分析に使用されます。

サンプルは、ダイレクト注入(インフュージョン)または HPLC により MS に導入することができます。HPLC でスキャン分析を行う場合は、クロマトグラフィーで得られる化合物ピーク幅とサイクル時間を一致させることが重要になります。サイクル時間はスキャン範囲に依存します。化合物ピーク幅が狭くなるほど、適切なデータポイントを得るために、合計サイクル時間をより短くする必要があります。合計サイクル時間を短くするために、スキャン範囲を短くすることが必要となる場合もあります。

トリプル四重極 LC/MS

トリプル四重極 LC/MS

ターゲット高感度分析には、トリプル四重極 LC/MS が最適の手法です。これは、タンデム四重極液体クロマトグラフィー/質量分析法(または、LC/MS/MS、LC/TQ、LC/QQQ)としても知られています。

最初の四重極(Q1)でイオンを選択して透過させ、そのイオンをコリジョンセルでフラグメント化してから、フラグメントイオンを 2 つ目の四重極(Q2)でさらに質量選択することにより高感度な測定が行えます。この手法は MS/MS と呼ばれており、対象化合物のフラグメントイオンを保持しながら、化学的ノイズを大幅に低減します。

主に使用される MS/MS モードはマルチプルリアクションモニタリング(MRM)です。また、特定のターゲット化合物に対して高い選択性と感度を実現しているため、複雑なマトリックスのターゲット定量に有用です。仕組みを説明します。

MRM モード

  1. プリカーサイオンの選択:MRM では、最初の四重極で目的のイオン(プリカーサイオン)を選択するように設定します。プリカーサイオンは、選択イオンモニタリング(SIM)測定の場合と同様に、最初の四重極を通して移送されます。
  2. 衝突誘起解離(CID):プリカーサイオンがコリジョンセルに移動すると、エネルギーが印加されて、不活性ガス分子との衝突が起こります。このプロセスは、衝突誘起解離(CID)として知られており、プロダクトイオンと呼ばれる多数のイオンフラグメントを高い再現性で生成します。
    このフラグメントによるフラグメントイオンは化合物分子を構成する原子や結合の位置などにより固有の比率で生成され、化合物の構造を反映しています。
  3. プロダクトイオンの質量選択:2 番目の四重極のパラメータは、特定のプロダクトイオンのみが検出器を通過するように設定されます。この多段階のプロセスは、MRM トランジションとして知られており、ターゲット化合物に対して高い選択性を示します。通常は、最もピーク強度の大きな MRM トランジションが定量分析で用いられ、それらはターゲットトランジションと呼ばれます。
  4. クオリファイアトランジションの追加:メソッドの信頼性を高めて、ターゲットトランジションのシグナルが目的のターゲット化合物であることを確認するために、分析対象物に固有の MRM トランジションを追加することができます。この追加トランジションは、クオリファイアトランジションと呼ばれます。一般的には、1 つのターゲット化合物でターゲットトランジションの他に、1~3 のクオリファイアトランジションが設定されます。
  5. ソフトウェアツールによる自動化:MRM メソッドの開発は、SIM メソッドやスキャンメソッドよりも複雑な場合があります。ただし、MassHunter Optimizer のようなソフトウェアツールを使用すれば、Agilent LC/MS/MS でこのプロセスを自動化することができます。

飛行時間型高分解能質量分析

飛行時間型高分解能質量分析

液体クロマトグラフィー/四重極飛行時間型質量分析(LC/Q-TOF)は、卓越した分解能と質量精度を実現しており、LC/MS や LC/MS/MS で得られるユニットマス質量分析とは異なる特徴があります。LC/Q-TOFは、化合物の推定に役に立つ豊富な情報を提供します。

LC/Q-TOF の分解能は、小数点以下 4 桁以上の精密な質量情報を持つデータを生成します。原子の質量、または化合物の分子質量は、同位体の比率により固有の値となるため、この高い精度の質量は測定対象化合物の訂正を行う上で重要となります。例えば、酸素の精密質量は整数値の 16 amu ではなく、15.9949 amu(原子質量単位)です。

測定質量と理論質量の間の一般的な誤差は、1~5 ppm の範囲内に収まるため、非常に類似した質量を持つ化合物を区別することができます。

高解像度の動画と同様に、高分解能精密質量分析(HRAM)は、低分解能の LC/MS や LC/MS/MS では不鮮明に見える可能性のある質量スペクトルの詳細を得ることができます。

飛行時間型(TOF)アナライザ

飛行時間型(TOF)マスアナライザでは、すべてのイオンに対して同時に均一な電磁力が印加され、イオンはフライトチューブを通して加速されます。

軽いイオンほど高速で移動して、最初に検出器に到達します。イオンの質量電荷比(m/z)は、イオンの到達時間により求まります。

飛行時間型(TOF)マスアナライザは、質量範囲の広いイオンを分析して、きわめて高い精度で到達時間を測定することができ、高い分解能を実現することができます。

フルスキャンモード

フルスキャンモードは、イオンの総透過率(TTI)またはトータルイオンクロマトグラフィー(TIC)と知られており、LC/Q-TOF システムで一般的に使用されています。システムは四重極の選択なしで動作し、すべてのプリカーサイオンが、フライトチューブを通過して検出器に到達します。このモードでは、すべての情報が取り込まれるため、レトロスペクティブ分析に特に有効です。

LC/Q-TOF システムは、セミターゲットモードまたはフルターゲットモードでも動作することができ、四重極とコリジョンセルを利用した MS/MS 測定選択性を向上させることもできます。さらに、日常的な定量分析で信頼性の高い測定が実施できます。

LC/MS イオン化イオン源

ほとんどすべての LC/MS イオン源は、荷電種を中性分子に付加する原理で動作します。この形式のイオン化は GC/MS とは異なり、分子自体が電子を失うことはありません。しかし、付加体は、通常 H+ プロトンを獲得したり(ポジティブイオンの場合)、プロトンを失ったりします(ネガティブイオンの場合)。そのため、LC/MS は、サンプル化合物を分解せずにイオンを生成することができ、分析対象物のインタクト質量を検出することができます。このプロセスは、ソフトイオン化とも呼ばれます。

最適なイオン源は分析対象物の極性と分子量から選択します。エレクトロスプレーイオン化(ESI)は、多価に電荷するサンプル(タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチドなど)の分析に有用です。また、1 価のサンプル(低分子医薬品、農薬、代謝物など)の分析も可能です。大気圧化学イオン化(APCI)は、中程度の分子量を持つ幅広い極性および非極性の分析対象物に適用できます。

高分子量および低分子量の極性分子を穏やかにイオン化

エレクトロスプレーイオン化(ESI)では、ネブライザを使用して溶媒流から微細なエアロゾルスプレー粒子を生成し、分析対象物の分子を含む液滴に電荷を誘起します。加熱乾燥ガスがエアロゾルスプレー粒子を覆うことにより、溶媒の蒸発(脱着)を促進します。急速に蒸発する液滴と上昇する電荷が組み合わさることにより、「クーロン爆発」が発生し、個々の分析対象イオンが付加体(例えば、[M + H]+、プロトン化分子)と対になります。これらのイオンは、キャピラリーサンプリング開口部を通過して、質量分析計の内部に移送されます。ESI は多価イオンを生成する能力が高く、非常に分子量の大きい分子(> 150 kDa)を検出することができます。これは、極性分析対象化合物に最適です。

詳細はこちら

様々な種類のサンプルで最大の感度

Agilent Jet Stream 高感度イオン源(AJS)は、エレクトロスプレーイオン化を元にした独自の技術を搭載したイオン源です。加熱した窒素を使用して、液滴の脱溶媒とイオンの生成を促進し、シグナルを増強してノイズを低減します。さらに、多くの分析対象物で通常の ESI と比較して 5 倍以上のレスポンスをもたらし、最高の感度を実現します。

詳細はこちら

エレクトロスプレーに適していない化合物も高い信頼性で分析

大気圧化学イオン化(APCI)では、大気圧で加熱されたベーポライザ(通常、250~400 ℃)によって LC 溶媒を噴霧します。その結果生成されるガス相溶媒分子は、コロナニードルから放出される電子によりイオン化されます。その後、溶媒イオンは、化学反応により分析対象物の分子に電荷を移動させます(化学イオン化)。これらの分析対象イオンは、キャピラリーサンプリング開口部を通過して、質量分析計の内部に移送されます。APCI は、広範囲の極性および非極性分子に適用できます。ただし、エレクトロスプレーと比較して、熱的に不安定な生体高分子の分析にはあまり適していません。

詳細はこちら

情報量とスループットの妥協を克服

Agilent マルチモードイオン源(MMI)は、ESI と APCIを一つのイオン源に統合した画期的な LC/MS イオン源です。基本的には、コロナ放電ニードルに噴霧する ESI ソースとして機能しており、化学イオン化のイオンを生成することができます。性能は、いずれかのイオン源を個別に使用するよりも多少低下しますが、非極性分析対象物と極性分析対象物の両方を、交換やダウンタイムなしに単一のイオン源でイオン化することができます。MMI は、ESI のみ、APCI のみ、または混合モードで動作することができ、多用途性に優れています。

詳細はこちら

LC/MS の詳細情報

シングル四重極 LC/MS (LC/SQ)

Agilent シングル四重極 LC/MS システムは使いやすい HPLC 質量検出器により、ラボの効率を向上させます。

LC/SQ の詳細はこちら

トリプル四重極 LC/MS(LC/TQ)

ルーチン分析用の高感度で堅牢なトリプル四重極 LC/MS システムは、ターゲット分析で高い定量精度を実現します。

LC/TQ の詳細はこちら

飛行時間型 LC/MS

(四重極)飛行時間型(TOF/Q-TOF)の高分解能質量分析技術は、ノンターゲット分析が行えます。

TOF の詳細はこちら

Q-TOF の詳細はこちら

ハイスループット LC/MS

ハイスループットラボの LC/MS システムは、複数の LC ストリームやクロマトグラフィーを高速オンライン SPE に置き換えることにより生産性を向上させます。

HT LC/MS の詳細はこちら