ワクチン研究画像提供:バンダービルトワクチンセンター

一般の人々にとっては、COVID-19 が発生するまで、パンデミックに備えるなど思いもよらないことでしたが、研究者たちは何年にもわたってパンデミックへの備えに大きな関心を寄せていました。

DARPA(アメリカ国防高等研究計画局) - パンデミック防止プラットフォーム(P3)プログラムの一環として、バンダービルトワクチンセンター(バンダービルト大学医療センターの一部)は、伝染病に迅速に対応できることを目指して、抗体治療の開発に取り組んでいます。

当センターでは、2018 年代半ばに、感染症の治療と予防に使用されるモノクローナル抗体の開発と、極めて効果の高い抗体の識別・評価に要する時間を大幅に短縮するための進め方について研究を開始しました。

バイオインフォマティクスと合成生物学の技術を活用したこの進め方では、大規模な抗体ベースの治療において最大の課題である、薬物送達方法と時間の問題に取り組んでいます。この理論では、抗体を静脈内投与する代わりに、目的の抗体のタンパク質をコードするメッセンジャー RNA を患者に投与することで、患者の細胞を抗体産生細胞へと変換させます。

これに取り組んでいるのは当センターだけではありません。ワシントン大学セントルイス校やノースカロライナ大学チャペルヒル校などの学術機関を含むウイルス学コミュニティで連携の輪が広がっており、細胞や技術の共有について話し合いが始められているほか、連携を通じて抗体発見プログラムを展開し、医療現場への導入を実現するにはどうすればいいかについても議論が行われています。

ワクチン研究

このプロセスでは、COVID-19 感染から回復して現在免疫がある人から血液細胞を採取します。メモリー B 細胞(免疫システムの抗体産生細胞)の選択的単離は血液サンプルから複数の段階を経て行われますが、抗体の軽鎖および重鎖ペアの遺伝子の塩基配列には、ハイスループットシーケンシングが使用されます。

高度なバイオインフォマティクスを用いて、ウイルスに対する機能性抗体をコードする可能性が高い抗体の軽鎖および重鎖ペアの遺伝子配列を、識別および合成します。次に、遺伝子を発現させ、小規模で抗体タンパク質を製造し、ウイルス中和効果を検査します。このプロセスでは、ウイルス中和活性について個別の評価が必要な抗体分子が数百種類も生成されます。このプロセスの最終段階では、ウイルス中和活性を示す抗体のメッセンジャー RNA を作成して、病気の症状を示す患者に投与します。この戦略では、患者自身の細胞でウイルスに対する抗体が作られるようにすることで、抗体の大規模な製造に要する多大な時間を削減するとともに、規制や輸送上の課題に時間をかけて対処することが可能になります。

ワクチン研究

このプログラムでは異なる段階でさまざまな最先端技術が使用されていますが、その中には新たにアジレントの一員となった ACEA Biosciences が開発した Agilent xCELLigence Real Time Cell Analysis(RTCA)プラットフォームがあります。ウイルス活性を正確に測定することは、ウイルスワクチンの開発と感染症の研究において極めて重要です。xCELLigence システムは、開発された抗体がウイルスを認識し、細胞培養でウイルス感染プロセス[細胞変性効果(CPE)と呼ばれる]を抑制するかどうかを調べるための、定量的ハイスループットスクリーニングに使用されています。

細胞培養におけるウイルスの細胞変性効果では、宿主細胞にいくつかの変化が見られます。これらの変化には、細胞の収縮または膨化、溶解、細胞融合、封入体の形成などがあります。すべてのウイルスが宿主細胞で細胞変性効果を引き起こすわけではありませんが、これが確認された場合には、ウイルス抗体価の測定、中和抗体の検出とその定量化といったさまざまな研究用途に利用できます。

xCELLigence システムでは、細胞変性効果のモニターが自動化されるため、ウイルス感染によって形成されたプラーク数を手作業でカウントするなどの煩雑な作業を省くことができます。また、この機器は CO 2 インキュベータ内に設置されたまま測定を行うため、感染力が高いウイルスを扱う場合にも安全な環境を保てます。この xCELLigence を含めた複数の分析を経て、数百の抗体からほんの一握りの候補物質が残ります。これらの抗体は精製されたのちに大学の共同研究者に送られて、最も強力な抗体が特定されます。

現在地球規模の課題となっている COVID-19 の感染拡大により、安全性が高く有効な治療薬を大規模かつタイムリーに提供することで、世界中のあらゆる層の人々が有効な免疫を持つようになることの必要性が高まっています。政府、産業界、科学コミュニティ間の連携、協業、コミュニケーションと、最先端の革新技術の活用を通じてのみ、この難局を乗り越えることができます。

参考資料:

  • Branche, E. et al.Human Polyclonal Antibodies Prevent Lethal Zika Virus Infection in Mice.Sci Rep.2019 volume 8: 9857
  • Charretier C., et al.Robust real-time cell analysis method for determining viral infectious titers during development of a viral vaccine production process.Journal of Virological Methods.2018 volume 252:57-64
  • パンデミック防止プラットフォーム(P3)