現在の感染拡大状況を踏まえると、世界中の研究者にとって SARS-COV-2 ワクチンの開発が急務であるのも当然と言えるでしょう。現在研究が進められているワクチンの候補物質は主に 4 つのクラスに分類されますが、これらのアプローチに共通することは、特性解析にクロマトグラフィーと質量分析のメソッドが使用されていることです。
この記事では、ワクチンの特性解析にクロマトグラフィーによる分離を使用した各ワクチンクラスの例を紹介します。
ウイルスワクチン
例:麻疹ワクチン、ポリオワクチン
前提:ウイルスワクチンは、ウイルスを弱毒化して作成したワクチンです。弱毒化されたウイルスによって病気になることはありませんが、体内の免疫システムに認識されると、免疫反応を引き起こします。これにより、免疫システムに病原体の記憶(免疫)を持たせることができるため、後で完全に活性化したウイルスが体内に侵入しても感染を防ぐことができます。
使用されるメソッド:Shin らによる論文では、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、完全なウイルス粒子と分解されたカプシドタンパク質を分離し、次にイオン交換クロマトグラフィー(IEX)を使用してさらに精製すると説明されています。
ウイルスベクターワクチン
例:エボラワクチン
前提:遺伝子操作したウイルスをベクターとして使用し、別の病原体のタンパク質を産生させて免疫を高めます。ベクターは、増殖するものもあれば、増殖しないものもあります。
使用されるメソッド:Wang らによると、IEX の一種であるアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)を使用して、完全な AAV6 カプシドと空の AAV6 カプシドが測定されています。
また、カリフォルニア大学の Emily C. Hartman によって、ウイルスのカプシドをベースとしたドラッグデリバリー担体の、すべての単一アミノ酸変異体の定量特性解析に、サイズ排除クロマトグラフィーを使用したことが報告されています。
核酸ワクチン
例:現在、人への使用が認可されたワクチンでこのメソッドが採用されたケースはありませんが、20 を超える研究グループが、このカテゴリのワクチン開発に取り組んでいます。
前提:この技法では、病原体から得た、免疫反応を引き起こすタンパク質をコードする DNA または RNA を使用します。
使用されるメソッド:DNA ワクチンの精製技法に関するレビューには、キャンベラ大学のチームが アフィニティクロマトグラフィーから疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)までさまざまな技法を使用して、ワクチン用の DNA プラスミドを精製する方法が述べられています。
また、Catherine Lancaster が率いる別のチームは、チクングンヤ熱ウイルスの糖タンパク質を構成する N-型糖鎖のパターンの特徴について取り上げていますが、このような取り組みが SARS-CoV-2 のスパイク糖タンパク質に対しても必要です。遊離グリカンキットを使用することで、最高レベルの再現性とスピードを確保しながら研究を進めることができます。
タンパク質ベースのワクチン
例:B 型肝炎ワクチン、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン
前提:通常、これらのワクチンは、ウイルスタンパク質のサブユニットまたはウイルス様粒子(VLP)をベースとし、体内にタンパク質を直接投与することで機能します。これにより、完全なウイルスではなくそのタンパク質が体内で認識されて、免疫反応を引き起こします。
使用されるメソッド:Santana らは、タンパク質ベースのワクチンを開発するツールとして、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用しています。このケースでは、インフルエンザワクチンに使用される、活性化された新型ウイルスのヘマグルチニン(HA)量の測定に、BioSec-3 技術が使用されています。
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