2019 年に地域で確認された新型コロナウイルスは、わずか数か月間で感染拡大を続け、今や世界中で猛威を振るうまでになりました。しかし、変化が見られるのは感染拡大状況だけではありません。ウイルスのゲノム、特に新型コロナウイルスなどの RNA ウイルスのゲノムでは、変異が急速に蓄積されるため、新たな感染を引き起こすウイルスごとに、ゲノムにわずかな違いが生じている可能性があります。
このような変異は、課題となる一方で、チャンスももたらします。ウイルスの変異を特定し、その発生地域、感染力、症状に関する観察データと関連付けることで、ウイルスの感染経路をモデル化し、感染において想定される挙動を明らかにすることが可能になります。例えば、ゲノム評価の結果、ニューヨークで確認されたコロナウイルスの大半が欧州由来であると考えられています。これにより、確認された特定のウイルス株に基づいて、治療方針を決定できるようになる可能性があります。
一方、多くのウイルス検査戦略の基盤となる定量 PCR(qPCR)技術などの各種メソッドでは、このような情報は提供されません。では、どのような方法なら情報を得られるでしょうか?
次世代シーケンシングによる病原体の分子フィンガープリント
かつてはあまり一般的でなかった次世代シーケンシング(NGS)技術ですが、この 10 年間で急速に普及しています。定量 PCR では、DNA の「かたまり」が増幅されて、増幅産物の大きさや量に基づき分析が行われますが、NGS メソッドでは、DNA を塩基単位で直接読み取ることが可能です。
一方、ヒトサンプルを分析する場合、膨大なヒト DNA の中から微小なウイルスゲノムを検出することは、極めて困難です。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで病原体ゲノミクスユニットのディレクターを務める Judith Breuer 教授が率いる感染症研究グループは、Agilent SureSelect のターゲットエンリッチメント技術を研究に使用して、ウイルスのゲノム配列を解析する手法を開発しました。SureSelect パネルとヒトのコロナウイルス配列を標的とするプローブを組み合わせて使用することで、ヒトサンプルからウイルスの配列を検出できるようになります。
次に、NGS で取得した配列データと既知の配列(リファレンス配列)を比較することで、ウイルスの遺伝子コードにおける変異、挿入、欠失を特定できます。これはきわめて強力な手法であり、グループを率いる研究者の 1 人である Breuer 教授は、臨床サンプルから直接病原体を分析するという、独自のアプリケーションを考案しました。
SARS-COV-2 の全容解明が急務な研究者に新しいツールを提供
この 10 年間、Breuer 教授からは、病原体研究の領域だけでなく感染症研究における SureSelect 技術のアプリケーションに対しても、かけがえのない貢献を頂いています。アジレントコミュニティデザインプログラムの一環として、アジレントでは、柔軟性に優れた高性能な SureSelect プラットフォームのテクノロジーを活用し、Breuer 博士と連携して 20 を超える病原体用 NGS パネルを発表しています。
COVID-19 の感染拡大を受けて、Breuer 教授のグループでは、英国の病院で発生したクラスターのコロナウイルス配列を研究するために使用される、SureSelect パネルを作成しました。英国の感染症研究における第一人者である Breuer 教授は、先月 COVID-19 Genomics UK Consortium のメンバーに選ばれました。
参考資料:
- Professor Judith Breuer joins major new alliance to map spread of coronavirus
- Most New York Coronavirus Cases Came From Europe, Genomes Show
本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、医薬品医療機器等法に基づく登録を行っておりません。
免責事項:アジレント製品を COVID-19 の検査、診断、治療、緩和の用途で使用することは承認されていません。アジレントでは、製品による新型コロナウイルスの検出について検証を行っていません。