HMI の仕組みは?
HMI ハードウェアは、改良型のトーチと、スプレーチャンバとトーチの間に挿入したメイクアップガスラインで構成されています。ネブライザガス流量を減らしてネブライザ効率を下げ、その分メイクアップガス (希釈ガス) を増やすことで、トーチに流入する総キャリアガス流量を一定に保ちます。このことにより、エアロゾル生成量が大幅に減少するため、TDS (総溶解固形分) が 1% のサンプルが導入された場合でも、プラズマがサンプルマトリクスにより過負荷になることはありません。プラズマへ導入されるサンプルエアロゾル量が低下すると、プラズマに運ばれる溶媒や水の蒸気量も低下します。分解される水蒸気が少ないと、プラズマの温度が高くなり、より安定になります。このプラズマ安定性の向上は、ICP-MS の能力を高め、可変性のきわめて高い高マトリクスサンプルを正確かつ日常的に分析するための鍵となります。
HMI を用いた分析の利点
図1. 無希釈 NASS-5 分析におけるシグナル減感
図1 では、リファレンスとして用いた 1% HNO3 中の 10ppb 多元素スパイクに対する、無希釈の NASS-5 海水標準サンプル中の 10 ppb 多元素スパイクの回収率(%) を示しています。7500cx のプラズマ状態は以下のように最適化しました:
図に示されているように、2% CeO/Ce では、NASS-5海水マトリクスによる大幅なシグナル減少(減感)が観察されています。減感率は Sc と Ba で 50%、イオン化ポテンシャルの高い Zn では 85% にも達しています (残存シグナルは 15% のみ)。安定性の高い 7500cx のプラズマでは、マトリクスの処理能力は大きく向上していますが、それでもすべての元素で 50~65% の減感が生じています。 しかし、HMIを使用した場合は、減感がほとんど排除され、もっとも減感率が高い In でも 15% に抑えられています。図1 のデータには内標準補正を使用していません。これはつまり、HMI を使用すれば、無希釈の海水を 1% HNO3 溶液の検量線に照らして分析できることを意味します。イオン化しやすい元素が高いレベルで存在していても (この場合、TDS は 3% で、ほとんどが NaCl)、Znシグナルにはほとんど影響が生じておらず、HMI によるプラズマの安定性向上が示されています。
HMI の使用は簡単?
HMI の設定と使用方法は、きわめて簡単です。高度なソフトウェアアルゴリズムにより、チューニングと最適化が自動にできます。必要なプラズマの安定性レベル (「通常の7700x」 または 「HMI」) を選択するだけで、レベルに合った設定が ICP-MS ソフトウェアにより自動的に読み込まれます。
HMI を取り付けたあとでも(7700x に標準搭載)、低マトリクスサンプルについては、ICP-MS を標準モードで操作することが可能です。標準モードと HMI モードは、ガスラインをつなぎかえる必要がなく、1回の分析のなかで自動的に切り替えることが可能です。
HMI のアプリケーション
HMI は、従来の ICP-OES マトリクスの多くに対応できます。OES分析用に調製された高マトリクスサンプル分解物にも使用できるため、サンプル前処理の余計な手間を省くことができます。HMI のアプリケーションには以下のものがあります: