最適な機器性能が必要な理由
ラボ機器は、科学者が正確で信頼性の高いデータを取得することで、科学研究を進めて最先端の製品を生み出すために必須のツールです。ただし、これらの機器の性能が、不適切なメンテナンス、一般的な摩耗や亀裂、その他の問題により経時的に低下し、結果が不正確になることがあります。機器性能の低下の例としては、次のようなものがあります。
- キャリブレーションをしない:天秤や pH メーターなどの一部の機器は定期的に調整して、測定値が指定の許容基準内に収まるようにする必要があります(キャリブレーション)。このような機器は正しくキャリブレーションしないと、測定値の精度と信頼性が損なわれる可能性があります。
- 適格性評価をしない:HPLC や GC などの一部の機器は、定期的に適格性評価を実施し、測定値が特定の許容基準内に収まるようにして、データの信頼性と精度を確保する必要があります。
- コンピュータシステムバリデーションをしない:コンピュータシステムではバリデーションを実行し、ユーザー要件に照らしてハードウェア、ソフトウェア、ビジネスアプリケーションを総体的にテストすることで、データインテグリティを確保する必要があります。この規制要件が満たされないと、コンピュータシステムから不正確な結果が出力され(または結果を出力できず)、深刻な影響が出る可能性があります。
- 非効果的な点検サービス:機器のメンテナンスを適切に実施しないと、機器の誤動作や故障が発生したり、機器が検出されなくなったりする可能性があります。これが予想外のダウンタイムや修理コストの原因になるだけでなく、結果の精度に影響する場合があります。
- 不適切なクリーニング:正しいクリーニング手順に従うことで、機器を最適な状態に保つことができます。ただし、機器のクリーニングを効果的または定期的に実施しないと、汚染物質がサンプルに入り、結果が損なわれます。
- 一般的な摩耗と亀裂:機器を多用していると、長い間に部品の摩耗や亀裂が発生する場合があります。機器を定期的に点検しないと、これらの部品が検出されなくなり、最終的に機器性能に影響する可能性があります。
機器が正常に動作しているように見えても、性能の適格性評価を定期的に実施して、ラボが正確なデータを取得していることを確認する必要があります。
機器適格性評価とは?
適格性評価は、ラボの機器とソフトウェアが正常に動作しており、正確な結果を生成していることを確認して文書化するプロセスです。
適格性評価プロセスには、所定の基準とユーザー要件に照らした、機器とソフトウェアの性能のテストとバリデーションが含まれます。
精度が重要な理由
前述のとおり、ラボの装置や機器のキャリブレーションや適格性評価が適切に実施されなかったり、これらが最適な状態で動作しなかったりすると、不正確なデータが生成されるリスクがあります。装置や機器が正常に動作しているように見えても、機器適格性評価のガイダンスやユーザー要件の変更により、機器に影響が出たり、その結果が無効になったりする可能性があります。分析結果が有効であるためには、機器がその用途に適していなければなりません。不正確または無効な結果は、次のような重大な事態を招く可能性があります。
- 誤った根拠に基づく結論や、間違った科学的解釈
- 多大な時間とリソースの浪費
- 規制要件への非準拠と、それによるライセンスの喪失
- ラボや企業の評判の低下
- 法的・財務的責任
ラボは適格性評価を定期的に実施することで、潜在的な問題が重大な問題になる前に特定して対応できます。また、ラボは適格性評価を定期的に実施することで、規制の要件や基準に確実に準拠できます。これは特に、監査や検査で適合性を証明しなければならない医薬品ラボにとって重要です。
FDA 監査レポートには、機器の適格性評価後のもう一つの重要な規制要件として、ラボのデータインテグリティの確保が含まれています。この場合は、適格性評価対象機器に接続されているコンピュータシステムに適用されるコンピュータシステムバリデーションを確認する必要があります。その目的は、データが安全で規制ガイドラインに適合していることを確認して、データインテグリティを確保することです。このためには、コンピュータシステムのハードウェア、ソフトウェア、ビジネスアプリケーションを、ユーザー要件に照らしてバリデーションする必要があります。
機器適格性評価の重要性
適格性評価の適切な実施頻度
適格性評価の実施頻度は、次のような多くの要因に応じて異なります。
- 規制要件:医薬品、バイオテクノロジー、環境モニタリングなどの業界には厳格な規制基準が適用されており、特定の種類の機器のキャリブレーションと適格性評価の頻度が指定される場合もあります。
- メーカーの推奨事項:機器が最高の性能を発揮できるように、そのキャリブレーションと適格性評価の頻度をメーカーが推奨事項として定めている場合があります。
- 機器の重要性:重要な機器とソフトウェアは通常、正確に測定し、ばらつきを最小限に抑えることが厳格に求められるプロセス内の結果の精度、信頼性、インテグリティの確保において重要な役割を果たします。このため、このような機器では、重要性が低い機器よりも頻繁に適格性評価を実施する必要があります。
- 使用頻度:他の機器より使用頻度が高い機器は、より頻繁に適格性評価を実施する必要があります。
- 環境条件:温度、湿度、汚染物質の曝露などの要因が、機器性能に影響を与える可能性があります。このため、より過酷な条件にさらされる機器は、より頻繁な適格性評価が必要となる場合があります。
- アップデート:機器やソフトウェアのアップデートが、データの運用や処理に影響する可能性があります。このため、機器やソフトウェアのアップデート後に再適格性評価を実施することを推奨します。
- ラボのインフラストラクチャや装置の変更:ラボが改修したり新規装置を設置したりすると、これらの変更がラボの環境条件に影響を与えて、再適格性評価が必要となる場合があります。
- プロセスやメソッドの変更:実験のメソッドやプロセスの変更により、機器の用途が変わり、コンプライアンスを確保するために再適格性評価が必要になる場合があります。
結局のところ、適切な適格性評価スケジュールを立てるための万能のアプローチはなく、さまざまな要因を慎重に検討することが必要です。
点検サービスによる機器性能の確保
適格性評価を社内で実施できるか
ラボは、機器の適格性評価は社内で実施できます。これにより、コストを削減し、ラボ固有のニーズとワークフローに合わせて適格性評価プロセスをカスタマイズできる場合があります。ただし、このアプローチを選択するには、次の課題と検討事項を考慮する必要があります。
- スタッフのトレーニング:適格性評価を社内で実施するには、スタッフがプロセスを正確に実行するための適格性を備える必要があります。これには時間とコストがかかる定期的なトレーニングの実施が含まれる場合があり、慎重な計画が必要です。
- 基準、装置、トレーサビリティ:ラボが適格性評価を実施するには、国内で、または国際的に認められた基準と適切な装置を利用できる必要があります。これらの広く認められた基準に対する測定のトレーサビリティを確立して、適格性評価結果の信頼性と精度を確保する必要があります。
- 文書化:適格性評価を社内で実施する前に、適切な文書化プロセスを確立することが重要です。紙ベースやスプレッドシートベースの適格性評価プロトコルの使用に頼っているラボは、人為的ミスや結果の処理などに起因するデータインテグリティ上のリスクがあります。
- 過剰な情報:現在、データインテグリティに役立つガイダンス文書が多数提供されていますが、多くのラボでは、その豊富な情報がかえって負担となり、コンプライアンス要件に適合した適格性評価ソリューションを適切なタイミングで導入することが大きな課題となっています。
- 万能のアプローチの回避:前述のとおり、適格性評価の頻度を決定するには、いくつかの要因を考慮する必要があります。また、適格性評価の万能アプローチ、例えばサービスベンダーの標準プロトコルのみを使用することはリスクになる可能性があります。このようなプロトコルは、コンプライアンスの必須条件である、ラボ固有のユーザー要件や機器の使用範囲に適合しない場合があるためです。
多くのラボが社内で適格性評価を実施することを決定していますが、(特に規制の厳しい業界の)その他のラボでは、専門のサービスプロバイダに適格性評価を外部委託する場合もあります。
専門のサービスプロバイダに適格性評価を委託するメリットとは?
機器適格性評価をアジレントのような専門のサービスプロバイダに委託するメリットとしては、次のようなものがあります。
- 専門知識と経験:専門のサービスプロバイダは、適格性評価を実施するための高度なトレーニングを受けており、経験豊富です。また幅広い機器に精通しているため、適格性評価結果の信頼性が向上します。また、ラボが自社スタッフの適格性評価トレーニングを企画する必要がないため、時間とコストを節約できます。
- トレーサビリティ:専門のサービスプロバイダは、国内で、または国際的に認められた基準へのトレーサビリティを確保できるため、信頼性と精度の高い適格性評価結果を得ることができます。
- 専門の装置とソフトウェア:専門のサービスプロバイダは通常、適格性評価のための最先端の装置とソフトウェアを使用しているため、精度を確保できます。また、ラボが自前で装置を購入する必要もありません。
- 時間の節減:専門のサービスプロバイダを利用することで、スタッフのトレーニング、適格性評価のスケジュール作成、適格性評価の実施、レポートの作成にかかる時間を節減できます。専門のサービスプロバイダが適格性評価を実施して、レポートを作成してくれます。
適格性評価サービスプロバイダとしてアジレントが選ばれる理由
独立系調査によると、アジレントの適格性評価サービスは全世界で 1 位に選ばれました。アジレントの適格性評価サービスの特長は次のとおりです。
- USP <1058> に準拠:アジレントの適格性評価サービスは、USP <1058> にもとづいて設計されています。USP は、分析機器の適格性評価について専門的に定めた章がある唯一の主要薬局方です。
- マルチプラットフォーム:アジレントは、きわめて幅広い電子適格性評価サービスを提供しています。アジレントの適格性評価サービスは、多くの種類の機器とソフトウェアで実施できます。
- マルチベンダー:アジレントの適格性評価サービスは、アジレントの機器に限定されません。アジレントのエキスパートは、アジレントおよびアジレント以外の幅広い機器とソフトウェアで適格性評価を実施できるようにトレーニングを受けています。
- カスタマイズ:アジレントは、ユーザーの要件に合わせてカスタマイズした適格性評価ソリューションを提供することで、規制当局による査察でのコンプライアンスリスクを大幅に低減しています。
- 統一的:アジレントは Agilent Automated Compliance Engine(ACE)ソフトウェアを用いて、統一的な適格性評価サービスを全世界で提供しています。このソフトウェアは電子プロトコルと電子レポートを使用しているため、ラボの要件に合わせて、コンプライアンスを確保しながら効率的に適格性評価サービスを構成できます。
- データインテグリティの確保:アジレントのエキスパートが、お客様のネットワーク化されたファイアウォール内にネットワーク分散型 ACE をインストールします。このため、分析機器の適格性評価において、ALCOA+ のデータインテグリティコンプライアンスを確保できます。
社内の機器適格性評価の課題
ラボのコンプライアンスと結果の精度の確保
正確なデータと科学の進歩のためには、ラボ機器が最適な性能を発揮できることが重要です。機器性能が低下するとデータが不正確になり、時間とリソースの浪費や法的・財務的責任などの深刻な影響が出る可能性があります。ラボ機器の正常な動作と規制要件への準拠を実現し、このような重大な結果が発生することを防ぐには、適格性評価が不可欠です。
社内の適格性評価の実施にはいくつかの潜在的メリットもありますが、アジレントのような専門のサービスプロバイダに外注すれば、社内の適格性評価を上回るいくつかのメリットを享受できます。アジレントとパートナーシップを結ぶことで、お客様は分析機器の適格性評価のリーダーとして認められた企業の専門知識を活用し、マルチベンダー、マルチプラットフォーム、統一的な適格性評価サービスによるメリットを享受して、ラボのコンプライアンスと最適な運用を実現できます。
お客様のラボの機器とコンピュータシステムでコンプライアンスが確保されているか、または機器の適格性評価が必要であるかどうかなどについてご不明な点があれば、アジレントのラボサービス専門家にお問い合わせください。ラボのコンプライアンス目標の達成に向けて、どのようにお手伝いできるかをご相談させていただきます。
Agilent CrossLab Insight シリーズ アンケート