重要ポイント
- 食品偽装を追跡するための実用的な手法として、化学的フィンガープリントを使用した食品の品質保証検査に関心が集まっています。
- 化学的フィンガープリントは、その複雑さのために、模倣がほぼ不可能です。
- フィンガープリンティング法は、食品に含まれる化学物質に対する、次世代の監視手法として認識されています。
- 高分解能質量分析に画期的なソフトウェアを組み合わせたノンターゲット分析により、蜂蜜などの複雑な食品マトリックスに含まれる数千の化学物質に対し、迅速に特性解析を行うことが可能です。
食品偽装は、消費者と生産者の大きな懸念となっており、世界で報告された食品安全性事件の 25 % を占めていることが調査で示されています1。食品の真正性に対する需要が高まっているということは、蜂蜜などのオーガニック製品や持続可能な方法で生産された製品に対し、消費者が常にプレミアム料金を支払っているということです。偽装業者による偽和物混入、低品質、または不正表示の食品が市場にあふれていることで、正当な事業者が損害を受けており、消費者の健康にリスクが及ぶ可能性もあります。
世界で最も広く偽装されている食品の 1 つが蜂蜜です。特にオーガニックの蜂蜜は、抗酸化物質の良質な供給源であるなど、そのユニークな特性が評価されて高価値であり、偽装が多くなっています。米国の食品偽装データベースによれば、蜂蜜は牛乳とオリーブオイルに次ぎ 3 番目に偽和物混入の標的となっています。また、経済面でも重要です。世界の蜂蜜の市場規模は 2020 年において 92 億 1000 万米ドルに相当し、8.2 % の年平均成長率で拡大していくと予測されています。2
高まる天然甘味料の需要
蜂蜜などの天然甘味料の需要が伸びています。消費者は製品を購入する際に、原材料を確認でき、原材料ができるだけ天然由来であることを求めます。そのため、数千年にわたって親しまれてきた天然甘味料である蜂蜜に再び関心が集まっており、蜂蜜の製造と販売は世界規模で非常に大きく成長しています。
また、多くの消費者が求めているのは、1 種類の花の蜜を集めるミツバチのみを由来とする単花蜂蜜です。単花蜂蜜は、それぞれの種類に応じて、固有の色、味、香りをもちます。消費者はこれらの製品により多く支払う意向を示しているため、保護対策により、求める品質の製品が確実に手に入るようにする必要があります。
国際連合食糧農業機関のデータによれば、主要な蜂蜜生産国として中国、メキシコ、ロシア、トルコ、米国が挙げられ、これらの国々で世界の生産量の 55 % を占めています。3 最も一般的な偽和物混入の形態では、より安価な他の甘味料で蜂蜜を増量したり、希釈したりします。一般的に確認されている増量剤は、トウモロコシ、サトウキビ、甜菜のシロップです。4
蜂蜜偽装を防止するための真正性検査
国際的な電子商取引では、蜂蜜の販売を規制監督の範囲外に置くことが多くなっており、この傾向は続くと予想されます。さらに偽装行為の増加も相まっているため、この問題に対処することは不可欠です。だからこそ、これらの物質を迅速に、効率的に、一貫性をもって特定することが重要になります。食品業界は、食品を一貫して高速に分析し、微量な化学物質を特定できる分析機器と検査手法を必要としています。
消費者の健康、製品のブランド、生産者の収入を守るために重要である食品の真正性を評価するためには、分析検査が必須です。検査は、偽装リスクを軽減するための全般的な戦略の一環として必要なものです。現在は堅牢な食品検査手法の開発のための革新技術が利用可能であるため、真正性検査の手法は急速に進化しています。
例えば、近年、Agilent 1290 Infinity II LC システムと Agilent 6545 LC/Q-TOF など、四重極飛行時間型(LC/Q-TOF)と組み合わせた高速液体クロマトグラフィーにより、蜂蜜サンプルの化学組成を解明するための高精度メソッドが可能であることが実証されています。このメソッドをノンターゲット手法とともに使用すれば、蜂蜜の化学マーカーにより新しい偽装タイプや混和物を同定し、発生している偽装行為を明らかにできます。この手法では蜂蜜の複数のマーカーを評価して真正性を判断するため、偽装業者が 1 種類以上の混和物を添加して偽装するのが非常に困難になります。この画期的な手法は蜂蜜フィンガープリンティングと呼ばれています。
蜂蜜のユニークな化学組成の測定
蜂蜜フィンガープリンティングでは、適切な手法を使用して、特定の蜂蜜サンプルの化学組成について、できるだけ多くの情報を記録します。人間の指紋(フィンガープリント)が個人で異なるのと同じように、フィンガープリンティング法では、本物の蜂蜜サンプルに固有の分子組成を解明し、記録します。これにより、品質、安全性、真正性に関する蜂蜜の規制方法に変革をもたらす、今までにない方法で食品成分のマッピングが可能となります。
ノンターゲットワークフローの利用においては、最初に、農薬、HMF という化合物(多く存在する場合に、熱処理や経過時間を示す)のように鮮度を示す分子、蜂蜜の由来となる花に関するフェノール化合物など、その他の化合物を同定します。この手法に LC/Q-TOF を使用することのメリットは、その効率にあります。少数のパラメータに注目するターゲットメソッドと比較して、1 サンプルから短時間で、より高いレベルの分子/トレース情報を取得できます。
蜂蜜フィンガープリンティング法の標準化
これまでの取り組みは、蜂蜜などの食品のフィンガープリンティングのためのケーススタディを進めながら実施されていますが、サンプル前処理や機器条件に関して、手法はラボごとに異なっていました。また、データ処理や分析に関してもばらつきがありました。結果として、同じサンプルを分析している 2 ラボ間でも、若干異なる結果が得られる可能性が生じます。理想的には、今後の取り組みを見据えて、すべての LC/MS ベースのワークフローで使用可能な、標準化されたフィンガープリンティング法を開発することで、複数のラボで同じ検査方法を使用できるようになることが最適です。
食品の安全性、製品品質、真正性の問題に対応する場合に、それぞれが異なる規制によって管理されている場合があります。例えば、蜂蜜に含まれる農薬などの残留汚染物質に焦点を当てると、世界的に統一されているわけではありません。特定の化合物の許容残留最大値について、各国でそれぞれ独自の規制値を設けている場合があります。蜂蜜のフィンガープリンティングに関しては汚染物質も対象となりますが、許容レベルは国によって異なります。
さらに、サンプルは検査のために現場からラボに持ち込まれますが、これを逆に、現場にラボを設けることに対する関心も浮上しています。興味深くはあるものの、まだ広く認知されていないこの性能は、規制機関や国際的な食品業界が蜂蜜の汚染と食品偽装によりすばやく反応できるようになると考えられます。
蜂蜜の純度を確保するための国際的なアプローチ
食品サプライチェーンのグローバル化が進み、食品偽装の機会が増えている中、上述したような検査法はますます利用しやすくなり、自動化され、容易に実施できるようになると専門家は予測しています。食品の完全な分子プロファイルが得られるフィンガープリンティング法は、今後、偽装の防止・同定システムの手段となっていくと見られています。
本物の蜂蜜サンプルのライブラリを構築して公開する取り組みや、蜂蜜フィンガープリンティング情報を国際的なサプライチェーンの関係者たちが利用できるようにするオープンなデータベースは、前向きな一歩です。知識が深まるにつれ、より多くの科学者たちが LC/Q-TOF などの手法を採用し、メープルシロップなどの他の種類の食品にもこの検査法を使用することが可能になるでしょう。
最終的な目標は、食品検査ラボが国際的な食品チェーンの脅威となる混入異物を確実に測定し、食品偽装に対処することで、消費者が本物の安全な蜂蜜を入手できるようにすることです。
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