リピドミクスは脂質に着目した研究分野であり、質量分析 (MS) などの技術の飛躍的進歩や、脂質プロファイルと肥満、高血圧、脳卒中、糖尿病などのある種の代謝性疾患との関連性の研究を背景に、急速に発展しつつあります。
脂質分子は、2 種類の重要な要素、すなわち極性部分と疎水性部分で構成されていることから、順相または逆相 LC/MS によって分析が可能です。
グリセロールのアルコール基は、長鎖脂肪酸でエステル化することができます。アルコール基の 1 つが極性基 (リン酸、ホスホコリン、ホスホエタノールアミン、ホスホセリンなど) に結合したものをグリセロリン脂質と呼びます。グリセロリン脂質は、MS/MS スペクトルで特徴的なイオンを示すことから、グリセロリン脂質の同定に役立てることができます。世界中のリピドミクス研究者は、これらの特徴的なイオンをもとに脂質を同定しています。いくつかの種類の脂質の特徴的な診断イオンを表 1 に示します。
脂質の種類 | ポジティブモード | ネガティブモード |
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ホスファチジルコリン (PC) | フラグメントイオン 184 | ギ酸付加体からの ニュートラルロス 60、 酢酸付加体からの ニュートラルロス 74 |
ホスファチジルエタノールアミン (PE) | ニュートラルロス 141 | フラグメントイオン m/z 140 または m/z 196 |
ホスファチジルセリン (PS) | ニュートラルロス 185 | ニュートラルロス 87 |
ホスファチジン酸 (PA) | フラグメントイオン 225 | フラグメントイオン 153 |
ホスファチジルイノシトール (PI) | フラグメントイオン 241 | |
スフィンゴミエリン | フラグメントイオン 184 および 264/266 | フラグメントイオン 168 |
セラミド | フラグメントイオン 264 および 282 | フラグメントイオン 237 |
ジヒドロセラミド | フラグメントイオン 266 および 284 | フラグメントイオン 239 |
さまざまな種類のリン脂質の診断的特徴に関する情報は、混合物中の脂質を同定するのに非常に役立ちます。表 1 の情報をもとに Agilent MassHunter Qualitative Analysis ソフトウェアを用いてデータをフィルタリングすると、脂質の解析が容易になります。例えば、フィルタリング方法の 1 つに「Filter results by fragments (フラグメントによる結果のフィルタリング)」というのがあります。これは、対象となるフラグメント質量数またはニュートラルロスでデータをフィルタリングすることができます。「Find compounds by Auto MS/MS (自動 MS/MS による化合物の検索)」タブをクリックすると、複数のフィルタリングオプションにアクセスできます。図 1 に脂質混合物データからセラミドを同定するための設定画面を示します。リテンションタイムウィンドウと MS 閾値パラメータは、クロマトグラムでデータを事前にしっかり確認してから設定してください。質量数の一致許容範囲がデータの真度によって決まり、解析結果に大きく影響をあたえる可能性があるので、フラグメントイオンの質量数を正しく入力する必要があります。同じツールでフラグメント質量数フィルタを 184.073 に変更すると、脂質を含むホスホコリンも同定できます。
同様に、脂質は、その特徴的なニュートラルロスによっても同定できます。ホスファチジルコリン (PC) は、ポジティブモードの MS/MS スペクトルに m/z 184 の支配的イオンを示します。また、ネガティブモードでは、ギ酸付加体からの 60 Da または酢酸付加体からの 74 Da のニュートラルロスを示します。ホスファチジルエタノールアミン (PE) は、ネガティブモードで m/z 140 および m/z 196 の特徴的なイオンを示します。ただし、ポジティブモードでは、プリカーサからの 141 Da の支配的なニュートラルロスを示します。データ取り込み時に使用したイオン化モードによって、データ処理を行う場合、フラグメントイオンとニュートラルイオンの両方でのフィルタリングが必要になることもあります。別の種類の脂質であるプロスタグランジン G は、ニュートラルロスフィルタ 100.09 Da によって同定できます (図 2)。
このように、関連する診断的特徴をもとにデータを処理することで、化合物リストを生成できます。作成した化合物リストは、化合物を同定するための任意のスペクトルライブラリにエクスポートできます。このアプリケーションの詳細については、アジレントの技術概要 5991-6959EN をご覧ください。
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