近年、医薬品のリコール件数が増えており、その多くで浸出不純物が原因となっています。2014 年には、アメリカ食品医薬品局 (FDA) によるリコール命令件数が 836 件に増加しました。リコールにより、承認済み医薬品を利用できなくなるなど患者に直接影響がおよぶ一方、製薬会社は多大なコストの負担を強いられます。
安全性を確保し、こういったリコールを防ぐために、高い感度と精度で抽出物および浸出物 (E&L) を検出、同定、および定量する分析的研究が求められており、医薬品、薬剤搬送システム、および生物医学機器のメーカーに対するプレッシャーはますます高まっています。アジレントは、絶え間なく進化するこの研究分野に役立つ幅広い機器とソフトウェアを提供しています。この記事では、E&L 分析における最新のベストプラクティスについて取り上げます。
E&L の分析ワークフローと検出メソッドは、分析対象物の物理化学的特性によって異なってきます。E&L の評価において、リスク評価閾値レベルで存在する可能性のある既知および未知の有機および無機化合物を幅広く検出できる汎用分析法はありません (図 1)。E&L 化合物の揮発性および熱不安定性にもとづく一般的な分析法は以下のとおりです。
E&L の分析には、主に LC/MS および GC/MS が使用されていますが、新たな技術を活用することで、分析を効率化し、複雑な混合物を分離し、感度を高めることができます。不揮発性 E&L の分析性能の向上に役立つ分析技術として、蒸発光散乱検出 (ELSD)、超臨界流体クロマトグラフィー (SFC)、二次元液体クロマトグラフィー (2D-LC)、イオンモビリティ MS などがあります。
ラボマネージャは、UHPLC システムを使用したビスフェノール A の定量メソッド開発時に、分析対象物とバックグラウンド成分を明確に分離できないという困難な問題に直面しました (図 2A)。そこで、図 2B に示す、添加抽出物と蛍光検出を用いた 2D UHPLC 手法を開発しました。
図 2A は、2D UHPLC ワークフローの一次元目で得られたクロマトグラムです。この分析には、Agilent ZORBAX SB-C18 カラムを装着した Agilent 1290 Infinity LC システムを使用し、水/アセトニトリルのグラジエントを用いました。上段のクロマトグラムは 230 nm のダイオードアレイ検出、下段は 230 nm の可変波長検出結果を示しています。一次元目の 2.18~2.22 分をハートカットしました。
図 2B は、2D-LC ワークフローの二次元目のクロマトグラムです。この分析には、Agilent Eclipse Plus Phenyl-Hexyl カラム を使用し、水/アセトニトリルのイソクラティック移動相を用いました。上段のクロマトグラムは 230 nm のダイオードアレイ検出、下段は 225 nm の励起および 310 nm の発光蛍光検出結果を示しています。
LC/MS を補完する ELSD は、低 ng 域での感度に優れ、発色団を持たない化合物に対して汎用性の高いレスポンスが得られます。ELSD では、周囲温度以下の 10 °C で化合物を蒸発させることで、半揮発性化合物の検出能を高めることができます。
SFC の主な利点の 1 つとして、分析スピードがあげられます。分離速度は LC の 2~5倍です。この他、抽出順序を逆相 HPLC に切り替えることができ、「順相」分離と質量分析を組み合わせることも可能です。Agilent 1260 Infinity ハイブリッド SFC/UHPLC システムは、SFC と UHPLC を容易に切り替えることのできる柔軟性を備えています。
※ Agilent 1260 Infinity II SFCは、後日発売予定です。
未知化合物のノンターゲット同定には、GC (揮発性化合物の場合) または LC (不揮発性化合物の場合) と TOF/Q-TOF を組み合わせ、高分解能精密質量 MS および MS/MS スペクトルを生成するメソッドが最適です。その後、公開データベースまたはプライベートデータベースで、一致する既知の参照標準物質を検索することができます。正確に一致した場合は、高分解能精密質量 Q-TOF データをもとに分子式を生成し、Agilent Molecular Structure Correlator などのソフトウェアツールを利用して、考え得る構造を未知化合物に割り当てることができます (図 4)。
Agilent MassHunter Workstation ソフトウェアに Agilent Mass Profiler Professional および Profinder を追加すると、サンプルセットを比較し、複数のサンプル群間で類似または異なる特徴を特定することにより、差異解析を行えます。差異解析は、各分析サンプルから数百のピークが生成される可能性のある E&L の評価にきわめて有効です。サンプルを比較する際に差異解析ツールを利用することで、データ処理効率を高めることができます。次号の Access Agilent では、差異解析ソフトウェアによる LC/MS および GC/MS データの解析が、E&L の迅速な同定および抽出物やサンプルの定量的/半定量的差異の観察にいかに役立つかをさらに詳しく説明します。
E&L 分析について取り上げた Chemical and Engineering News (C&EN) ウェビナーのパート 1 および パート 2 には、ラボのプロフェッショナルの方々から大きな反響がありました。また、このトピックに関する C&EN ホワイトペーパーにも高い関心が寄せられています。このホワイトペーパーでは、E&L 分析の基本原理、E&L 研究の設計方法、ワークフローの詳細など、E&L 分析における最新のベストプラクティスを概説しています。ぜひ、これらの役立つリソースをご覧ください。また、詳細については、アジレントの担当者にお問い合わせください。
本記事の執筆にご協力いただいた Jordi Labs 社社長 Mark Jordi 博士に心から感謝いたします。図 2 および図 3 は、Mark Jordi 博士のご厚意により掲載させていただきました。また、ここで紹介している実験は Jordi Labs 社で実施されたものです。