水は地球での主要なマトリックスです。水の純度評価と水中成分同定は化学者にとって永続的な研究テーマです。微量の有機汚染物質は、度々環境問題となってきました。これらの汚染物質は性質の違いから、揮発性と難揮発性に分類されます。揮発性有機化合物の代表的な成分には、塩化ビニル、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等があり、これらの多くは発癌物質、またはその疑いがあるとされています。
水中の揮発性有機化合物 (VOC) の分析には、ヘッドスペースとパージアンドトラップ (P&T) の 2 つのサンプリング手法があります。ヘッドスペース手法ではサンプルバイアル上部の気相からガスサンプリングが行われます。P&T 手法ではトラップによる濃縮と加熱脱着が行われます。P&T 手法はサンプル液体からも強制的にパージするため、検出限界が低くなります。試料に含まれるマトリックス影響により、パージに不適な水サンプルもあります。このようなサンプルでは、ヘッドスペース手法が有効です。
米国 (EPA) では現在、P&T 分析法が規定されていますが、欧州および他の地域ではヘッドスペース法が採用されています。新しい Agilent ヘッドスペースサンプラと新設計の 5977B 超高感度イオン源 (HES) 搭載 GC/MSD が、ヘッドスペース分析の検出限界をより低くしました。これによりヘッドスペース法の適用範囲が広がりました。
Agilent 5977B 超高感度イオン源 (HES) 搭載 GC/MSD システム、Agilent 7697A ヘッドスペースサンプラ、Agilent 7890B GC を使用して、0.04 µg/L での MDL 分析 (N=9) を実施しました。その結果を表 1 に示します。2 種類の化合物を除くとすべての化合物で MDL は0.025 µg/L または 25 ppt 以下でした。大部分の化合物は MDL 0.015 µg/L 以下を示しました。いくつかは比較的レスポンスの低い化合物もありました。詳しい結果は、アジレントのアプリケーションノート 5991-6539EN をご参照ください。
化合物名 | RT | 定量イオン | MDL |
---|---|---|---|
塩化ビニル | 4.934 | 62 | 0.004 |
ブロモメタン | 5.611 | 93.9 | 0.003 |
クロロエタン | 5.806 | 64 | 0.003 |
1,1-ジクロロエテン | 7.007 | 95.9 | 0.008 |
trans-1,2-ジクロロエテン | 8.007 | 95.9 | 0.009 |
1,1-ジクロロエタン | 8.554 | 63 | 0.004 |
cis-1,2-ジクロロエテン | 9.19 | 95.9 | 0.011 |
2,2-ジクロロプロパン | 9.208 | 77 | 0.013 |
ブロモクロロメタン | 9.47 | 127.8 | 0.004 |
1,1,1-トリクロロエタン | 9.769 | 96.9 | 0.005 |
1,1-ジクロロ-1-プロペン | 9.921 | 75 | 0.012 |
四塩化炭素 | 9.94 | 116.9 | 0.003 |
ベンゼン * (ブランク) | 10.165 | 78 | 0.009 |
1,2-ジクロロエタン | 10.202 | 62 | 0.006 |
図 1 は代表的な化合物の直線性 (濃度範囲 0.02 ~ 20 µg/L) を示しています。 マトリックス影響を受けることなく、信号強度が向上し、検出限界が大幅に向上しています。
9 回繰り返し分析時の塩化ビニルのリテンションタイム (図 2) を重ね合わせクロマトグラムを示しています。
実サンプルの水道水における繰り返し分析の安定性を示しました (図 3)。繰り返し分析時のピーク面積の安定性を示しています。
今回の結果は、新しい超高感度イオン源 (HES) を搭載した Agilent 5977B GC/MSD を用いることで、揮発性有機物の静的ヘッドスペース分析で検出限界の大幅な向上が実現したことを示しています。マトリックスの影響を受けることなく信号強度が向上し、明らかに検出下限が向上しています。揮発性化合物の低い MDL の実現は、サンプリングおよびメソッドの堅牢性にとってより有効です。
Agilent 5977B GC/MSD と超高感度イオン源 (HES) の機能が、水質分析において、有効であることをご覧ください。アジレントでは豊富なガスクロマトグラフィー製品、カラム、消耗品も取り揃えています。アジレントのトータルソリューションについてご興味があれば、弊社までお問い合わせください。