Darlene Solomon は子供のころ、週末になると素数に没頭していました。学校ではどの教科も成績優秀でしたが、化学の問題が一番の楽しみでした。マサチューセッツ工科大学(MIT)で生物無機化学の博士課程を修了した後、動脈内医療機器のセンサー技術を推進する学際的なチームの一員として、Hewlett-Packard(HP)研究所に入社しました。当時はまだ女性社員は少数派でした。Solomon は次のように語っています。「80 年代前半の HP では、女性はあまり多くありませんでした。上級幹部においてはなおさらです。1988 年になると、研究科学者だった私は、Society of Women Engineers(全米女性技術者団体)の全国大会を模した、HP 初の Technical Women’s Conference を共催しました。HP の本社で土曜日に開催されたのですが、大勢の HP 女性社員が一堂に会しているのを見て、驚くと同時にやる気が湧いてきました」

科学における多様性

最上位職へ:初の女性 CTO に

現在、Solomon はアジレントのシニアバイスプレジデントであり、会社の技術戦略と研究開発の優先順位を決定する立場である最高技術責任者(CTO)を兼任しています。さらに、アジレント以外でも高い評価を受けています。2017 年に全米技術アカデミー会員に選出され、2018 年には南カリフォルニア大学(USC)の Viterbi 工学部が主催する第 40 回 Viterbi Awards において、Daniel J. Epstein Engineering Management Award を同大学より受賞しました。Viterbi Awards は、「エンジニアリング界のアカデミー賞」とも称され、「崇高な目的意識を持ち、より良い社会のために優れた技術と知識を還元したエンジニア」に贈られる賞です。Epstein Award は、模範的な功績を称え、エンジニアリング界に果たした貢献を評価して、業界のリーダーに贈られます。また、Solomon は American Institute for Medical and Biological Engineering のフェローに選出され、Healthcare Technology Report による「バイオテクノロジー分野の女性リーダートップ 25」にも選ばれています。

女性の進出

科学分野における女性の進学や仕事に関する統計は、やや曖昧で、多くの要素によって定義されています。例えば、米国科学工学統計センター(NCSES)が発行する「科学工学分野における女性、マイノリティ、障害者(WMPD)」に関する 2019 年の報告書によると、教育では女性が男性に追いつき、2018 年の科学工学(S&E)分野の学士号取得者の半数は女性であったものの、S&E に携わる職に就く女性の割合はまだ少ないのが現状です9。同報告書によれば、これにはいくつかの理由が考えられます。大学入学前の授業履修状況、S&E 分野の高等教育への参加、全般的な学業成績の違いなどが挙げられます。

科学における多様性

一方、Solomon は自身のこれまでの経験に満足していると言います。「入社以来、私たちは長い道のりを歩んできました。アジレントは従業員で成り立っており、アジレントの未来は、私たちが引き付けてつなぎ留めることができた人材と、提供する職場環境の直接的な結果であると言えます。人種、民族、技術分野、人生経験の多様性により洞察力と視野が広がることで、お客様のニーズを理解して予測する能力だけでなく、より良いアイデア、意思決定、問題解決を通じてイノベーションを引き起こす能力も向上します。つまり、多様性が豊かになるほど、アジレントの機会と競争力も高まるのです。今日、社内では VP や SVP などの役員レベルにおいて女性が強い存在感を示していますが、依然として女性が少ないグループでは今後同じ状況を作る必要があります」

黒人従業員の声

分析ラボの技術サポートをリードするアジレントは、科学の発展にはイノベーションの実現が欠かせないと考えています。しかし、多様性と包括性に率先して取り組むことは、一般に考えられているよりも難しいことです。2020 年の「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」抗議運動を受けて、多くの組織は包括性への取り組みを公言しましたが、データによると、専門的なサポート、トレーニング、プロセス、施策の改善とガバナンスによって、より現実に即した行動が必要とされています。

科学における多様性

アジレントの CEO の Mike McMullen は、「ジョージ・フロイド抗議運動(白人警察官による黒人男性の死亡事件に対する抗議活動)」を目の当たりにして、早急にこの問題に対処しなければならないと感じました。McMullen は黒人従業員のフォーカスグループを招集し、黒人従業員だけでなく、すべての従業員にとって包括的な職場を育成することを約束しました。その後、2021 年 2 月に「Council of Black Employees(CoBE)」を立ち上げました。このグループのビジョンは 2 つあります。1 つ目は、黒人従業員が職場でありのままの自分でいていいのだと感じられるような包括的な文化を育むこと。2 つ目は、アジレントが、黒人従業員が才能を存分に発揮できるライフサイエンス企業であることを保証することです。

CoBE のメンバーは、変化を実感していると言います。CoBE のメンバーでアジレントの製品スペシャリストである Morgan Richardson は次のように語っています。「会社が自分のことを見てくれていると感じ始めています。これまでのキャリアの中で、部屋の中で黒人は自分一人だけといった状況が何度かありました。自分が透明人間になったような、ユニコーンになったような気がしたものです」Richardson の経験は珍しくはありません。だからこそ、CoBE はアジレントの黒人コミュニティとつながりを持つことに力を入れています。CoBE のメンバーは毎月、コーヒー休憩やランチなどのカジュアルな雰囲気の中で、他の 2~3 人のメンバーと会っています。ただゆっくりと話をして関係を築くのです。CoBE のメンバーで、アジレントの品質トレーニング責任者である Terence Davis は、この試みは仲間の黒人従業員だけでなく、リモートワークをしている従業員とつながる手段としても有用だと話しています。さらに、CoBE は黒人従業員の隠れた才能に光を当てているとメンバーは言います。「CoBE のおかげで、社内に埋もれていた黒人従業員の才能に注目が集まるようになりました。どのような人物なのか知られるようになったのです。今では、アジレントの黒人従業員が決められた役割以外に何をしているのか、何ができるのか、マネージャが把握できるようになりました」

科学における多様性

アジレントは世界中に約 16,000 人の従業員を擁していますが、そのうち黒人はわずか 300 人ほどです。この数字は上位職になるほど激減しますが、McMullen もこの事実を承知しています。「飛躍的な進歩を遂げたとはいえ、世界の一部の地域だけでなく、あらゆる場所でやるべきことがあるという認識は今も変わりません。この勢いを維持するには努力が必要なことも分かっています。従業員の認識、上位職の性別の多様性、賃金の平等性といった観点で対策を講じるとともに、新規および継続中の取り組みを確立し最適化することで、アジレントは真の多様性を実現しようと全力を注いでいます」

数字が語る真実

多様性には、人種、民族、性別、性的指向、社会経済的地位、文化、障害、教養、さらにはイデオロギーなど、さまざまな要素があることは誰もが知っています。しかし、これらはより良い科学的成果を生み出す上で重要なのでしょうか。

数十年にわたる研究の結果、人々の集団が多様であるほど、複雑な問題を解決する能力、創造性を発揮する能力、迅速にイノベーションを起こす能力が、同質な集団と比べて高くなることが分かっています1。また、多様性のある科学研究グループは、系統的アプローチでいち早く成功する傾向にあり、新しい研究法、知見、専門知識を得るための道を見出すことができます。これは、チームのメンバー一人一人がそれぞれの経験に基づいて、問題解決に向けて独自の考えを持ち寄るからです。

科学における多様性

多様性はイノベーションを増進するだけでなく、市場の成長も促すという確固たるエビデンスもあります3。真に社会を巻き込むような大きなイノベーションには、多様なアプローチ、視点、データ、知見、ソリューションを統合した開発プロセスがつきものです。

複数の研究によると、バックグラウンドが異なる人々と交流するだけで、より適切な準備ができることが示されています。例えば、異なるバックグラウンドを持つ人々は、異なるタイプの質問をしたり、異なる視点を求めたりする傾向があります。これにより、その集団はより早く合意に達することができます。反対に、メンバーが同質的な集団では、たいてい同じ視点を持つため迅速に合意に達するものの、問題解決策の効果が低くなってしまいます。

つまり、多様性のある科学者グループでは、同質的な科学者グループよりも、発表および引用されている論文数が多いことは偶然ではないのです。

学術界における同類性を調査した研究では、米国と英国の科学論文を、民族(ethnicity:eth)、専門分野(discipline:dsp)、性別(gender:gen)、所属(affiliation:aff)、アカデミックエイジ(academic age:age)の 5 つの属性で分析しました。その結果、国際的に多様なグループによる論文は、同一国の著者による論文と比較して、被引用回数が有意に多かったと結論付けられました。

論文「The Preeminence of Ethnic Diversity in Scientific Collaboration」の著者らは、1958 年から 2009 年の間に多様性がいかに共同科学研究を促進してきたかを示しました。特に、民族の多様性により、論文では 10.63 %、科学者では 47.67 % 影響力が増大することが分かりました。

多様な考えを得るメリット

多様性を高めることは、単に正しいことであるばかりでなく、イノベーションの能力に大きな影響を与えます。『Scientific American』の記事の著者らによると、多様性は新しい情報や考え方を探求するための鍵であり、より良い意思決定や問題解決につながります3。記事には次のように書かれています。「多様性は、研究やイノベーションを効果的に行う方法の核心となる要素です。自分とは異なる人々と仕事をしなければならないとき、私たちはより綿密に準備をし、議論をまとめるために努力する傾向があります。その結果、質の高い仕事ができるのです」

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本製品は一般的な実験用途での使用を想定しており、医薬品医療機器等法に基づく登録を行っておりません。

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