環境や食物連鎖中に存在するマイクロプラスチック分析の関心が高まっています。複数の分析技術がある中で、どの技術が自分自身や顧客のニーズにとって最適なのでしょうか?これは現在、メーカーによく相談される質問です。例えば、GC/MS に熱分解装置を組み合わせたシステム使用するべきか、あるいは分光光度計に顕微鏡を組み合わせたシステムがより適切であるか、という問題です。
このようなポイントを考えるにあたっては、ユーザーが求めている情報をもとにして選択することが必要となります。最も大きなニーズとしては、試料に存在するプラスチックや添加物の総(バルク)量に関する情報を求めているかもしれません。あるいは、サイズ、形態、化学的特性など、個々の粒子の詳細な情報に関心がある場合もあります。それぞれの技術は一長一短あり、すべての問題に対応できる 単一の技術はないため、ユーザーはどの技術が適切であるかを評価して選択する必要があります。
マイクロプラスチック分析の技術には 2 つの大きなカテゴリがあり、それぞれが、お互いに補完的な情報が得られます。GC/MS と最適なサンプル導入技術を使用すれば、ポリマー、添加物、サンプルに含まれるその他の物質の総量について、高い精度で詳細な情報を得ることができます。しかし、粒子数、サイズ、表面積など、粒子そのものに関する情報は提供できません。
赤外線(IR)やラマン顕微分光法などの分光分析法では、個々の粒子に関する詳細情報(サイズ、形状、化学的特性など)を得ることができますが、総質量の情報は提供できません。分光分析に従い総質量を予測する研究者もいますが、これらの結果は参考に過ぎません。今日、分光分析に使用されているすべての顕微鏡は、粒子の長さと幅の 2 つの寸法を測定するだけです。ただし、高さは測定できません。結果として、これらの技術における質量の評価は、推定の高さ、粒子の楕円性、ポリマーの質量に依存しています。このように、マイクロプラスチックの完全な特性解析では、GC/MS による手法と分光分析法によって補完的な情報が得られます。
GC/MS は熱分解装置(パイロライザ)または熱重量分析装置(TG)と組み合わせることが可能です。パイロライザは、ガスクロマトグラフ(GC)の注入口に直接接続されたマイクロ加熱炉です。急速熱分解で、高分子量化合物はより分子量の小さなフラグメント(加熱生成化合物)に熱分解され、直接 GC カラムに導入されてクロマトグラフィー分離され、質量分析計(MS)に移送され、検出されます。GC/MS と組み合わせて、熱重量分析装置(TGA)を使用することで、熱抽出脱着(TED)を実行することが可能です。TEDは、より均質なサンプルの導入、分析の自動化、さらなる堅牢性の向上という点において、熱分解法により多くのメリットをもたらします。
分光分析法の中では、FTIR 顕微鏡(イメージングおよび非イメージング)、ラマン顕微鏡、Laser Direct Infrared(LDIR)分光分析が一般的に使用される技法です。各技法について、本稿のそれぞれのセクションで説明します。
質量分析計(GC/MS)と組み合わせたアジレントのガスクロマトグラフィーシステムは、画期的なサンプル導入技術と組み合わせることで、マイクロプラスチックの熱分析と定量に使用されています。
主な違いは、サンプル前処理の要件です。GC/MS 技法では、サンプル前処理が比較的少なく済みます。しかし、分光分析法では、広範なサンプル前処理が必要になる場合があります。これらの技法では個々の粒子を調べるため、分析対象のタイプではない、妨害となる材料を取り除くことが重要です。そのような材料により、分析が大幅に遅くなったり、さらには、求める詳細レベルが得られなくなったりする可能性があるからです。
清潔な飲料水のサンプル前処理は比較的シンプルです。しかし、廃水やその他の複雑な混合物のサンプル前処理の場合は、ろ過や固形物を取り除くための密度分離のほか、有機物やタンパク質原料などを取り除くためのさまざまな操作が含まれます。分析対象のマイクロプラスチック粒子を保持し、損失を最小限に抑制する方法で、行う必要があります。すべての分光分析法において、この種のサンプル前処理が非常に一般的であるという点に留意してください。
Laser Direct Infrared イメージング(LDIR)は IR 分光分析の新しい技法です。この技法では、IR 光源として波長を可変することができる量子カスケードレーザー(QCL)に、高速スキャン光学機器を組み合わせます。これは 2 つのモードで使用できます:波長を固定して広域を高速スキャンモード、回折限界の空間分解能で位置を固定して波長を可変させるモード。LDIR では、可視カメラではなく IR 光を用いて、該当の領域の高速イメージングによりマイクロプラスチック粒子を検出し、粒子の位置、サイズ、形状を測定します。その後、個々の粒子からスペクトルを取得し、ライブラリと照合することにより、リアルタイムで分析結果を提供できます。
LDIR はFTIR システムの主な制約の一部を克服します。これにより、分析時間が大幅に高速化されるとともに、完全に自動化することも可能です。QCL は、ラマンで使用されるレーザーによりも低電力で動作するため、蛍光の影響やサンプルへの損傷によるリスクがありません。電子冷却式検出器は液体窒素を必要とせず、IR システムにおいて最高の分解能を備えており、10 µm ほどの小さな粒子を検出可能です。ただし、これは比較的新しい技術です。つまり、LDIR では、IR スペクトルの指紋領域を使用することもあり、他のシステムと比較して該当ライブラリのデータの作成があまり進んでいないということです。
長所:
短所:
スクリーン上で識別しやすいよう、マイクロプラスチック粒子をポリマーの種類により色分けできます。
8700 LDIR ケミカルイメージングシステムは、環境サンプル中のマイクロプラスチックの分析のために、自動化ワークフローを実現します。
8700 LDIR ケミカルイメージングシステムおよびマイクロプラスチック分析に関する詳細:
フーリエ変換赤外(FTIR)機器には、シンプルな(かつ低価格の)シングルポイント顕微鏡から、より大きな領域で多数のピクセルに対し同時にスペクトルを取得可能な、はるかに高価なフォーカルプレーンアレイ(FPA)顕微鏡まであります。FTIR は確立され、よく知られた技術であり、関連の重要な文献と、広範なスペクトルライブラリが存在します。ただし、かなりの分析時間を要します。最大の FPA システムでも一度に 1mm2 未満の領域しか撮影できず、これらの領域をモザイク化して、データをつなぎ合わせる必要があります。結果として、一般的な 13 mm フィルタ領域でのデータ取り込みに、3 時間以上かかると見られます。取り込み後、結果を得るために、大量のデータを個々に処理しなければなりません。撮影された領域と使用されたシステムによって、長時間かかる可能性があります。
長所:
短所:
マイクロプラスチックを対象に、Agilent 8700 LDIR は FTIR の主な制約の多くを克服します。LDIR およびマイクロプラスチック分析の詳細:
FTIR や LDIR とは反対に、ラマンイメージングでは IR 透過または反射ではなく、ラマン効果を使用します。多くのラマンシステムでは 1 µm までの粒子サイズを検出可能で、最良の IR システムでは光の回折限界が上限となっています(10 µm 以上)。もう 1 つの長所は、粒子の位置と特性を測定するために可視光画像を使用し、次に、粒子間の空の領域を無視して粒子からのみスペクトルを取得することで、分析を自動化できるということです。主な制約は、ラマン効果は比較的弱いため、これらのシステムではより強力なレーザーを使用するという点です。サンプルへの損傷が生じたり、サンプルが蛍光を示し、有用なラマン信号がかき消されてしまったりする可能性があります。より弱いレーザーを使用したり、信号を減衰させたりすることでこれらの問題を軽減できますが、速度が犠牲になります。
長所:
短所:
マイクロプラスチックを対象に、Agilent 8700 LDIR はラマンイメージングの主な制約の多くを克服します。LDIR およびマイクロプラスチック分析の詳細:
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