2020 年 4 月、シカゴ大学の天体物理学者たちによって異例と呼ばれる出来事が目撃されました。大幅に異なる質量をもつ 2 つのブラックホールが衝突したのです。この出来事の重大さは、宇宙物理学や重力物理学への影響の大きさそのものでした。つまり、ブラックホールの回転の仕組みに関するヒントのみならず、アルバート・アインシュタインの一般相対性理論によって予測されていたものの、観察されてこなかった重力波の存在の実験的証拠が天文学者らにもたらされたのです。

ブラックホールの発見を可能に

これはどのように実現されたのでしょうか? この科学の背後にある基礎実験では、最も困難な真空条件下で動作する複雑な機械が必要となります。実際に「真空」技術は、ほぼすべての高エネルギー物理学、粒子加速、表面科学の最前線で活用されています。 真空とは、「圧力が、周囲の大気圧よりも低い空間」として定義できます。真空科学は、数千年にわたり多くの偉大な精神の持ち主たちを刺激してきたテーマでありコンセプトなのです。

真空科学の起源は、アリストテレスが「自然は真空を嫌う」と述べた 4 世紀にまで遡ることができます。超高真空(UHV)と呼ばれる、地球上で達成可能な最高レベルの真空は、「イオンポンプ」という装置を使用して実現されます。イオンポンプの技術におけるすべての主なイノベーションは、1957 年の Varian Vacuum(現在の Agilent Vacuum)によるスパッタイオンポンプ、および UHV の時代を切り開いた ConFlat フランジ(CFF)の発明から発展してきたものです。現在、真空ソリューションは、学術機関や政府系のラボ、および世界中の大規模な物理プロジェクトの原動力となっています。イオンポンプの技術におけるすべての主なイノベーションは、1957 年の Varian Vacuum(現在の Agilent Vacuum)によるスパッタイオンポンプ、および UHV の時代を切り開いた ConFlat フランジ(CFF)の発明から発展してきたものです。 現在、真空ソリューションは、学術機関や政府系のラボ、および世界中の大規模な物理プロジェクトの原動力となっています。

真空技術

重力波

重力波とは、宇宙空間における見えない波紋です。重力波は光速で伝播し(186,000 マイル/秒)、その経路であらゆるものを伸縮させます。相対性理論の一環としてアインシュタインは、惑星や星などの 2 つの天体が互いに周回するとき、独特の現象が発生すると予測しました。そして、この種の動きにより、池に広がる波紋のように、宇宙空間に波紋が生じる可能性があるという学説を立てています。宇宙におけるこのような波紋のことを科学者らは重力波と呼んでいます。

最も強力な重力波は、物体が非常に高速で移動している場合に発生します。重力波を発生させる事象の例として、星が非対称爆発した場合(超新星)、2 つの大きな星が互いに周回している場合、または 2 つのブラックホールが互いに周回し、合体した場合などがあります。

2015 年、科学者たちは初めて重力波を発見しました。その際にレーザー干渉計重力波観測装置(LIGO)という高感度機器が使用されました。彼らが発見したものは、2015 年に初めて認識したにも関わらず、13 億年前に発生した衝突でした。

LIGO - 真空について

LIGO は、重力波の直接検出を通じて、重力波天体物理学の分野を切り開くことを目的に設計されています。重力波の直接検出は数キロメートル規模の重力波検出器で実現します。検出器が激変的な宇宙線源から重力波の通過によって生じる時空の微小な波紋をレーザー干渉計を用いて測定するのです。これらの宇宙線源には、一対の中性子星やブラックホールの合体などがあります。LIGO は、ワシントン州ハンフォードとルイジアナ州リビングストンという、米国内の遠く離れた 2 つの干渉計で構成されています。これら数キロメートル規模の検出器において非常に清浄で安定的な高真空をつくり出すことは、システム全体の動作にとって極めて重要であり、主要な技術的課題の 1 つでした。また、これらの検出器に関しては、稼働時間、信頼性、無振動運転という不可欠の要件もありました。

アジレントは、これらの厳しい条件にすべて対応するカスタムイオンポンプを設計・製造し、この実験の成功のために理想的な真空条件を実現しました。

詳しく見る

チリのセロパチョン山の山頂に戦略的に置かれた大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST)は、天文学において最大のデジタルカメラです。8 メートルの広角地上望遠鏡、3.2 ギガピクセルカメラ、自動データ処理システムで構成されています。LSST プロジェクトの目的はシンプルです。空の巨大な領域の深探査を行います。肉眼で見える空のあらゆる部分の画像を数晩ごとに得られる頻度でこの探査を実施し、これを 10 年間継続して、これまでに蓄積されたものの数千倍の規模の天体カタログを獲得するというものです。

LSST は現在建設中で、2022 年 10 月に本格稼働が開始される予定です。開発者たちはプロセスの終了までに望遠鏡によって地球の人口を上回る銀河系が分類されると見込んでいます。作成されるデータの巨大公開アーカイブにより、宇宙の 95 % を占める暗黒エネルギーや暗黒物質のほか、銀河形成、潜在的に危険な小惑星に関する知識が大幅に深まると予想されています。作成されるデータの巨大公開アーカイブにより、宇宙の 95 % を占める暗黒エネルギーや暗黒物質のほか、銀河形成、潜在的に危険な小惑星に関する知識が大幅に深まると予想されています。

LSST - 真空について

真空は、焦点面が配置されている、LSST カメラの「心臓部」にあたるクライオスタット部を空にするために必要です。それにより LSST チームは、非常に困難な環境や動作条件の下で圧力を制御しつつ、できるだけ多くの通常の大気ガスを除去することにより、カメラの心臓部を保護することができます。LSST の内部には、アジレントのスクロールポンプ、イオンポンプ、ターボポンプが搭載されています。これらはすべて、LSST が新しい銀河系を撮影し、カタログを作るのに役立ちます。プロジェクトチームがアジレントのイオンポンプを選んだ 1 つの理由は、可動部がないことです。これはポンプの稼働中に振動信号が発生しないということであり、振動が LSST のカメラと干渉して収集データの品質に影響を及ぼすのを防止します。

低真空下でイオンポンプを稼働すると、通常は寿命が短くなりますが、アジレントのイオンポンプの寿命は研究者たちの検証により、LSST プロジェクトの 10 年の予定期間を通じて稼働し続けることが確認されています。

真空技術


Agilent TwisTorr 305 ターボポンプの断面図

真空技術の機能にはもう 1 つの目的があります。過酷な環境条件下で確実に動作するためには、ドライスクロールポンプとターボ分子ポンプが必要となります。チリの山頂の気温は -10 °C から 10 °C におよび、低温範囲においてはベアリングの潤滑油と電子機器に不具合が生じる恐れがあります。遠隔地での長期のダウンタイムにより LSST プロジェクトが台無しになってしまう可能性があるのです。

神の粒子

神の粒子」とも呼ばれるヒッグス粒子は、素粒子物理学の標準モデルにおける基礎粒子です。標準モデルでは、自然の基本的な力は、ゲージ不変性と対称性と呼ばれる宇宙の特性から生じると主張しています。力はゲージボソンという粒子によって伝播されます。ヒッグス粒子は、素粒子物理学の理論における 1 つの場であるヒッグス場の量子励起によって生成されます。ヒッグス粒子という名前は、1964 年に他の 5 人の科学者とともに、一部の粒子が質量をもつ理由を説明するヒッグス機構を提言した物理学者ピーター・ヒッグスから付けられたものです。科学者たちは 2012 年、スイスの CERN* にある大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での ATLAS および CMS 実験を通じて、ヒッグス粒子の存在を最終的に確認しました。これにより、2013 年のノーベル物理学賞がヒッグスとアングレールの両氏に授与されました。

真空技術

神の粒子 - 真空について

現在アジレントの傘下にある Varian Vacuum は 1967 年以来、欧州原子核研究機構(CERN)と連携関係にあります。世界をリードする原子力研究組織とアジレントとのコラボレーションは、イタリア、トリノの工場の開設から始まりました。この工場の特定の目的は、実験を対象に超高真空(UHV)を作成するためのイオンポンプを製造することでした。それ以来、アジレントのポンプは、2012 年のヒッグス粒子の確認を含め、一部の最も挑戦的な素粒子物理学の実験のために CERN で使用されてきました。2020 年 9 月、アジレントは今後 4 年にわたるイオンポンプとコントローラの製造に関する契約を CERN から授与されました。この契約は長期のパートナーシップにおける最も新しいマイルストーンであり、継続的な関係と、それによって実現されるすばらしい科学の確信を示すものです。

時空間を捉え続ける

科学が進歩し続ける中、想像を超える方法で時間と空間を捕捉するこれらのすばらしい機器とシステムの開発において、真空技術は重要な役割を担っていくでしょう。 17 世紀に始まった真空の科学は、これからの数多くの発見と前進の中核となるはずです。

アジレントの真空製品


アジレントの真空製品