牛乳:必須なもの
牛乳は、バランスのとれた食生活に欠かせない脂肪、ミネラル、栄養素、微量栄養素、ビタミンの天然の供給源です。新生児や乳児が成長し、幼児期へと発達するために不可欠です。この栄養を適切な量で摂取するために、1 歳から 3 歳までの幼児は 1 日に 350 ~ 400 mL の牛乳を飲むことが推奨されています。1
最低でも出生から 6 か月間、および 1 歳から 2 歳までの期間は、母乳または乳児用調整乳のいずれかを与えます。低脂肪の代替ミルクでは得られない必須ビタミンを乳幼児が確実に摂取できるよう、全乳や乳製品が推奨されます。2
世界の乳製品市場の概要
世界の乳製品市場は、2025 年までに年平均成長率(CAGR)が 5 % に達する見込みで、売上を独占しているのが牛乳分野です。3 2018 年に世界の牛乳生産量は前年から 2.2 % 拡大し 8 億 4300万トンに達しました。この期間に中国とウクライナでの牛乳生産量が減少したものの、南アジア、欧州、北米と南米地域での生産量が増加したためです。3
世界的な乳製品業界における市場成長を考慮すると、牛乳やその他の乳製品の将来は相対的に予測が困難です。絶えず貿易が行われており、今後 4 年間にわたり取引量が増加すると見込まれている中、牛乳と乳製品の栄養価、安全性、真正性の検査が消費者と生産者の両方にとって極めて重要となります。
栄養価、安全性、真正性を守る
牛乳とその関連製品は、食品飲料業界内で 3 つの主な項目に対し検査が行われます:
- 栄養価 — 牛乳の必要な栄養価が製品に含まれていることを確認します。
- 安全性 — 牛乳に有害な疑いのある化学物質が含まれていないことを確認します。
- 真正性 — 乳製品に偽和物が混入され、何らかの方法で品質が損なわれていないことを判定します。
これら 3 つの項目を検査することにより、規制が行き届かない市場に達している可能性がある、不正表示、偽装、汚染の恐れがある乳製品について、消費者の保護をより一層高めることができます。
牛乳および乳児用調製乳に対する栄養価検査の重要性
牛乳の栄養価の検査は、購入の際に消費者が情報に基づいた意思決定を行うために非常に重要です。特に、乳児用調製乳などの製品を供給するメーカーは、地域、国、国際的な規制機関によって規定された妥協のない栄養価を堅持する必要があります。
牛乳や乳児用調製乳の購入に関する消費者の意思決定を支援するために、メーカーによる製品の正確な表示が極めて重要です。そのため、食品分析ラボで検査します。HPLC、LC/MS/MS、GC システムを用いて牛乳の糖、脂肪、ビタミン、アミノ酸の含有量を正確に測定することが可能です。
ビタミンのほか、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、セレン、リン、マンガン、亜鉛などの有益な(または必須の)元素の量を測定することで、栄養に関するより深い情報を得ることができます。動物由来の牛乳に含まれるヒ素、カドミウム、スズ、水銀、鉛などの潜在的毒性物質を監視することも重要です。動物飼料、肥料、土壌、または食品加工プロセスから汚染が発生する可能性もあるからです。
Agilent 5800 VDV ICP-OES システムに SPS 4 オートサンプラを組み合わせて、ISO 15151 メソッドに従い粉乳および乳児用調製乳サンプル中のカルシウム、銅、鉄、カリウム、マグネシウム、マンガン、ナトリウム、リン、亜鉛を測定した研究報告があります。4 その結果から、認証値または参照値に対するすべての成分の回収率は予測値の ± 10 % の範囲に収まり、栄養表示が適切であることが確認されました。4
Agilent 7900 ICP-MS にオプションの超高マトリックス導入(UHMI)技術とインテグレートサンプル導入システム(ISIS 3)を組み合わせて牛乳および乳製品中の主成分および微量元素の高速分析した報告の例もあります。5
牛乳の安全性を検査
牛乳などの動物由来の食品に対しては、動物用医薬品の含有レベルを検出するために追加の精密検査が行われます。牛乳サンプルを検査するための洗練された方法がなければ、マトリックスの複雑性と、モニタリングが必要な医薬品類似物の数により、分析上の課題が生じる可能性があります。さらに、さまざまな国の異なる規制要件により、広範な規制条件に適合するサンプル参照も必要となります。
アジレントは、牛乳やその他の動物由来食品に含まれる動物用医薬品、代謝物、変換生成物を効率的に検出する LC/MS(LC/MS 動物用医薬品アプリケーションキットを含む)ソリューションを標準的な抽出プロトコルまで含めて提供しています。LC、SFC、GC テクノロジは質量分析において、優れたサンプル前処理と組み合わせることで高い効率を生み出します。
牛乳の安全性を検査する際、もう 1 つの考慮すべき点は牛乳の元となる動物飼料、およびその他の乳製品に添加される植物由来成分が、規定に準じて、責任をもって農薬が使用されているということです。これを検証するためのLC/MS、GC/MS、Q-TOF ワークフローは、食品分析ラボが牛乳サンプル中の農薬レベルを正確に測定するソリューションを提供します。
市販の牛乳および乳児用調製乳に含まれる塩素酸や過塩素酸塩などの好ましくない副生成物についても、検出、定量、微量分析の検証を行う定期的な食品安全性の検査が実施されます。Agilent 1290 Infinity II LC および Ultivo トリプル四重極 LC/MS(LC/TQ)使用した研究が報告されています。6 この報告結果では、10 μg/kg という欧州委員会が定めた牛乳および乳児用調製乳中の最大残留基準値(MRL)に対し、その 10 分の 1 のレベルでの正確な定量が示されています。6
牛乳の偽装を見抜き、真正性を守る
世界的に見て、牛乳は依然として市場において最も偽和物混入の多い食品および飲料の 1 つです。7 例えば、2008 年における中国の民和回族トゥ族自治県の粉乳の分析では、肥料やコンクリートの製造に使用される有機化合物であるメラニンの汚染が見つかっており、その時はサンプル中に最大限度の 500 倍にあたるメラニンが検出されました。8
南アジアでは最近、地域の主要都市における乳製品の偽和物混入に対処するために、パキスタンのパンジャブ州食品局が 80,000 L 近くの牛乳を押収しました。この牛乳は、尿素と水が添加されていたために警告対象となりました。9
食品偽装業者は、消費者や生産者を欺くだけでなく、個人の健康に重大な被害を及ぼす可能性があります。幸運にも、分析機器や検査方法におけるイノベーションによってこの種の不法行為が暴かれており、牛乳や乳児用調製乳などの製品の真正性と安全性の検証を通して、消費者からの信頼が回復しています。
アジレントの機器と分析メソッドは、上述のとおり、食品偽装の検査に非常に有効であり、これからも食品分析市場において品質保証と管理に取り組むお客様をサポートし続けます。10
一例として、ギー(乳脂肪分)サンプルに含まれる β-シトステロールをAgilent 8890 GC および Agilent 5977B GC/MS シングル四重極質量分析計で検出と定量を行い、植物油の混入を確認しました。11 β-シトステロールの含有は品質の低さと関連性があり、偽和物混入牛乳の可能性の指標となります。検査の結果、ギーサンプルから 2.24 ppm の β-シトステロールが検出されました。11
牛乳やその他の食品の品質保証の検査において、既知化合物を特定するには、ターゲットとノンターゲットの両アプローチが使用できます。後者のアプローチは、牛乳中の混和物が新規物質、もしくは食品分析ラボによってこれまで特定されていない場合に有用です。例えば、四重極飛行時間型質量分析計を用いたノンターゲットアプローチでは、純正な食品の化学的フィンガープリントを作成して、食品偽装業者による国際的な食品サプライチェーンでの不正行為をより困難にします。
牛乳の偽装を排除するためのパートナーシップの構築
今後数年間にわたり牛乳の販売が増加すると見られ、店舗やオンライン上で製品の種類の選択肢がさらに広がる中で、アジレントのような企業が今後も食品分析関連の顧客と連携し、牛乳の栄養価、安全性、真正性を保持しながら、牛乳偽装の危険性を排除することに取り組むことが大切です。特に、乳製品メーカーは、絶えず更新されている品質と安全性に関わる複数の食品規制を遵守する必要があります。お客様の製品の消費者が自分自身や家族の栄養のために自信をもって購入品を選択できるよう、アジレントはお客様をサポートします。
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