ラボ効率の最適化は、多くのラボマネージャにとって話題の中心となっています。改良された新しいスマート技術によって、手動でのプロセスが自動化された統合型のアプリケーションに置き換えられる中、効率と生産性に関するこれまでの課題が解消されつつあります。モノのインターネット(IoT)の取り組みの一環として、完全デジタルラボへの道筋が促進されているのです。

グローバルコンサルティング会社 Gartner によれば、ラボとは、デジタル技術によりラボの運用を変化させ、ビジネスモデルを最適化し、結果として新たな収益と価値を生み出す機会を実現するラボを指します。つまり、これはデジタルビジネスへ向かうプロセスになります。

製薬ラボのリーダーたちを対象としたアジレントの調査結果が、このような観点を裏付けています。回答では、ラボのプロセスを改善・更新する緊急のニーズが際立っています。回答者は次のように述べています。

  • より迅速に結果を得たい(55 %)
  • 品質向上のニーズがある(44 %)
  • データインテグリティを向上させたい(43 %)
  • 現在のワークフローを最適化する必要がある(83 %)

追加の調査結果で、意思決定に利用状況データ(ラボの全機器の稼働状況を理解するためのツール)を使用しているのは、ラボマネージャの 4 % に留まっていることが明らかになりました。1 さらに驚くべきことに、一部のラボ機器は平均で 35 % の時間しか使用されていませんでした。2

手間のかかるシステムを廃止しスマートテクノロジーを導入

既存のラボワークフローで頻繁に直面する主な課題に対処するために、変化の核となっているのがスマートテクノロジーです。アジレントのような分析企業は、普通のラボからスマートテクノロジーラボへの変換を支援することで、結果の品質、コスト効率、ラボスペースに関して妥協することなく、より優れた機器とサービスをお客様に提供することができます。

「未来のラボ」とは、デジタルラボを土台とするコンセプトです。これには、相互に接続し、統合された自動化によって膨大な量のデータ収集が可能な、スマートテクノロジーワークフローシステムが含まれます。英国ケンブリッジで開催された「Lab of the Future Congress 2020」イベントでは、基調講演者が「未来のラボは、壁で囲まれることはない」と述べています。3 これは、ラボのデジタル化により、分析とその他の手順との間で流動性と相互接続性が実現されることを示唆しています。

デジタル接続ラボによる科学の変革

デジタルラボは、さらに多くのデータにアクセスできることから、より進歩したラボと考える必要があります。データは科学の変革にとって重要であるため、デジタル接続ラボはもちろん、どのようなラボにおいても、生成するデータの量を拡大することで、大変革を実現できる可能性があります。ただしそれは、データを有用な情報や知識へと収集・合成した場合に限られます。

デジタル環境(すなわち、デジタルフォーマットによるペーパーレス業務)では、デジタル化をフルに活用します。完全なデータ分析のために必要な機器がすべて組み込まれ、データの価値を最大限に活かして意思決定を行います。

ラボの全機器をクラウドに接続

人工知能(AI)は多くの場合、認知的課題の解決方法を学習する機械能力として定義されます。しかし、科学的手法とラボの相互接続性に関しては、人間の観察力と意思決定プロセスを模倣するためのデータ収集に AI が使用され始めています。それをさらに進め、AI を経由してラボのすべての機器を接続することで、技術とユーザーの相互作用もこれまで以上に的確に理解する機会がもたらされており、ラボの運用を包括的に把握できる可能性があります。

AI は、非効率を監視して特定し、推奨事項を提示することにより、データの解釈に留まらず、提案を行う知能レベルに達しています。ラボの運用をより効率的に管理し、結果として研究と発見を加速するために使用することができます。

AI 技術がラボのデジタル化を拡大

ラボの運用をモニタリングし、鋭い考察を可能にする機能が、AI をラボ環境に導入する主要な動機となっています。この強力な情報源へのアクセスは、科学的生産性において必要な構成要素になりつつあります。これは AI だけが生成できる価値の高い知識を提供する、非常に効率的なラボ管理システムを創出するにあたり、避けられない次のステップです。

機器の電力消費などの変動要素の範囲を検出、監視する測定機能を AI と組み合わせることにより、企業は事業と将来の計画において、確実な運用および財務上のメリットを実現できるようになります。AI はすぐに利用できる質の高い考察を通じて、ラボにおける全機器の使用状況の同時モニタリングと、総合的なキャパシティの追跡を実現します。

実際のデジタルラボの各要素を表した概略図

実際のデジタルラボの各要素を表した概略図

デジタルイノベーションによりお客様の主要な課題に対応

アジレントは、お客様のニーズに応えるソリューションを提供するために、数々の技術とプラットフォームを開発して、可能性を広げてきました。そのために、以下の手段によって機器製品、サービス、消耗品の相互連結を強化しています。

  • デジタルラボを促進する統合型の製品とサービス
  • ビジネスのしやすさを向上する、より迅速でお客様優先のオンライン対話
  • 運用効率を向上させるソリューション

例えば、Agilent CrossLab グループの一部である Digital Lab Program は、相互に補完するように設計された製品のエコシステムであり、強化されたデジタル機能をお客様のエンドユーザーに提供することで、ラボの体験を向上します。この取り組みは、データインテリジェンスにおける業界最先端のツールによって特定の技術を活用し、世界中のラボの科学的・経済的成果を促進しています。これには次のようなものがあります。

  • アセットモニタリング – Agilent CrossLab アセットモニタリングでは最新 IoT センサー技術とデータ解析を組み合わせて、ラボ全体の可視化を実現します。センサーベースの利用状況のモニタリングと、ビジネス分析を組み合わせることで、ワークフロー全体でラボの全機器の利用状況データを把握したり、ダッシュボードに蓄積された解析情報を参照して改善のための考察を促したり、機器の利用状況データを活用して設備投資、運用コスト、生産性を最適化することが可能です。
  • Smart Alerts – 機器の状態をモニタリングし、主な消耗品を交換するべきとき、点検サービスを実施するべきとき、ラボ内でアジレント機器の動作が停止したときに、電子メールによるアラートを送信し、ラボオペレータに通知します。デジタルラボ全体の接続により、すべてのアジレント機器をリモートでモニタリングできます。
  • SLIMS – エンドユーザーは、サンプル受領から結果レポートの自動作成まで、ラボにおける一連の工程が進む中で、効果的にサンプルを追跡できます。SLIMS は、非常に優れたラボ情報管理システム(LIMS)と電子ラボノート(ELN)を組み合わせることで包括的なソリューションを実現し、ラボの状況を全面的に管理します。
  • OpenLab ソフトウェア/クラウドストレージ – サンプル管理から複雑な解析、安全なデータ保存に至るまで、ラボのほぼすべてのコンピューティング負荷を処理するための現実的な選択肢となっています。

競争の激しい環境で競争力を維持

科学的イノベーションが世界的に加速していることから、ラボは競争力の維持を目的としたデジタル化に必要な技術投資を検討する必要があります。現在はデータを元に意思決定することが重要視されているため、ラボのエコシステムで生成されるすべてのデータを作成、管理、有効活用する方法を根本的に変革しなければなりません。絶えず変化する世界で競争力を獲得し維持していくには、ラボの運用と科学的データの管理を変革し続ける必要があります。これは、実際にデジタルラボを目指す上で、最も重要な第一歩となるでしょう。


参考文献:

1 Agilent asset management survey of lab and operations managers

2 Utilization data from Agilent Asset Monitoring; blend across high-value Cat 1, 2, 3 assets in R&D and QC

3 https://www.genengnews.com/insights/biopharmas-lab-of-the-future-cant-wait/


リソース:

https://www.agilent.com/en/crosslab