メガトレンドとは、複数の市場に種がまかれ、技術開発が積極的に進められている社会の大きな潮流のことです。現在すでに、ライフサイエンス、生物学、テクノロジーに関する 3 つのメガトレンドが存在しています。私たちの未来に大きな意義を持つこのメガトレンドは、今後さらに重要性を増していくでしょう。


1)個別化医療を促進し、細胞リプログラミングを可能にする DNA 配列情報

この 10 年間で、シーケンスできる DNA 塩基の総数は 6 桁以上増えました。この傾向は継続する見込みです。膨大な量の配列情報により、新たなアプリケーションが実現し、マルチオミクスにおける細胞解析技術が向上しています。

DNA 配列情報が得られたことで生物学的パスウェイに対する理解が深まり、個別化医療も進展しています。DNA を読み取ることができれば、DNA 配列の狙った領域を改変し、DNA を編集することができます。こうして、配列情報の解明により細胞リプログラミング(次にご紹介するメガトレンド)が可能になったのです。

さらに、配列情報が得られたことでマイクロバイオームやメタゲノミクスといった、まったく新しい研究領域が生まれました。私たちは当然、自身の体をヒトとして捉えていますが、人体にはヒト細胞の 100 倍の微生物細胞が存在していることが分かっています。その微生物細胞の種類は個体あたり 10,000 種以上に及びます。マイクロバイオームの研究はまだ初期段階にありますが、健康維持と疾患予防における重要性が明らかになってきています。

2)さまざまな産業で急成長を遂げ、医療に変革をもたらす細胞リプログラミング

細胞リプログラミングは多様な産業において、生物学とあまり関連がない分野においても、私たちの発想を一変させています。

細胞リプログラミングの主要な技術として、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)が挙げられます。CRISPR とは原核生物に見られる DNA 領域で、細菌の免疫機構において重要な役割を果たしています。近年、この機能を利用してあらゆる生物の DNA を永続的に改変する方法が開発されました。

CRISPR は膨大な配列情報に役立つだけでなく、従来の遺伝子編集技術よりも格段に速く、効率的かつ簡単に利用できる技術でもあります。わずかこの 5 年間で、学術機関、政府機関、企業の研究施設など、世界中の多くのラボが CRISPR 技術をいち早く取り入れました。

特に基礎研究において CRISPR の活用が進んでおり、さまざまな遺伝子の役割が解明されています。例えば、モデル生物において極めて効率的に遺伝子をノックアウトすることで、その機能的重要性を判断することができます。

細胞リプログラミングは遺伝子の編集にとどまりません。再生医療に欠かせない要素である幹細胞にも広がっています。この分野はまさに医療に変革を起こそうとしています。かつては不可能と考えられていた機能を可能にする幹細胞技術、ハイブリッドシステム、生体工学に関する研究は急速に進んでいます。

3)ラボをスマートにするデータサイエンスと IoT(Internet of Things)

データサイエンスとデバイスの接続性によって進歩するのは科学だけではありません。ラボの生産性および運用効率の観点から、分析ラボや臨床検査ラボの経済面も改善されます。

こうした改善はスマートな機器から始まります。サンプルのリアルタイムでの分析および実際の使用状況に基づく機器データを利用することで、機器の性能、使用率、スピードが向上します。そして、スマートな機器はスマートなワークフローをもたらします。使用時のリアルタイムモニタリング、エラー回避、試薬ワークフロー追跡の機能を統合したソリューションは、あらゆるレベルのユーザーが利用することができます。

さらに、スマートなワークフローはスマートなラボを生み出します。機器使用率をリアルタイムで最適化し、メンテナンスや障害を事前に予測することで、予期せぬダウンタイムを減らし、何か不具合が生じても迅速に対応することができます。そして特筆すべきは、スマートなラボが世界とつながるということです。境界を越えてグローバルに科学的データを共有できるので、確実に研究は進展します。機器の操作性にこうした変革が起きれば、ラボのグローバルな運用がより生産的かつ効率的になり、高い成果を上げることができるでしょう。さらには業務提携や共同研究の強化につながるでしょう。

メガトレンドから利益を得るには

ご紹介した 3 つのメガトレンドは、さまざまな産業や企業に大きな影響をもたらすと考えられています。各組織はどのメガトレンドからどのような影響を受けるのか慎重に検討、分析、特定する必要があるでしょう。新たな時代のリーダーとなるには、事業の最適化だけでは不十分です。長期的な視点を持ち、新しい機会、市場、ビジネスモデル、戦略のための最善策を見極めなければなりません。


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