1. はじめに
紫外可視分光光度計 (Ultra violet-visible spectrophotometer; UV-Vis 分光光度計) とは、紫外から可視領域 (200 - 800 nm) までの光をサンプルに照射し、サンプルを透過または反射した光を検出することで、スペクトルを取得する装置である。装置構成によっては、紫外から近赤外領域 (200 – 2500 nm) までの測定が可能となり、紫外可視近赤外分光光度計 (Ultra violet-visible-Near InfraRed spectrophotometer ; UV-Vis-NIR 分光光度計) と呼ぶ。
得られたスペクトルからは、サンプルの化学的もしくは物理的特性に関する知見を得ることができる。一般的に、ピーク強度からはサンプルの濃度 (定量) 、スペクトル形状からはサンプルがどのような物質なのか (定性) 、サンプルの電子状態および立体構造 (化学的特性) を解析することができる。また、サンプル状態および測定目的に応じたアクセサリを組み合わせることで、様々な測定が可能となる。
一般的で汎用性のある分析装置であることから、材料試験・研究、化学・石油化学、バイオ・製薬などの幅広い分野において、半世紀以上に亘り利用されている。
本項に記載する数値や図表は、アジレント・テクノロジーとして保証するものではなく、一般的または代表的なものを記載しています。
2. 分光光度計の構成
分光光度計の構成概略図を図 1 に示す。一般的な分光光度計は、光源 (Light source) 、モノクロメータ (Monochromator) 、サンプル室 (Sample compartment) 、検出器 (Detector) で主に構成されている。ここでは、各構成の役割および特徴の概要を説明する。
図 1. 分光光度計の構成概略図
2.1. 光源
光源は、測定に用いる光を放射する。放射される光は、様々な波長の光から成る多色光 (Polychromatic light) である。光源ごとに放射する光の波長範囲が異なるため、測定波長範囲に対応した光源に切り替えて測定を行う。
重水素放電管 (Deuterium discharge tube ; D2)
重水素ガスのアーク放電を利用した放電型のランプで、185 – 400 nmの光を放射する。紫外領域でエネルギーが高く、安定した光を得ることができる。一般的な寿命は約1,000時間である。
タングステン・ハロゲン (Tungsten halogen ; WX)
フィラメントに電流を流すことで発熱し、高温になることで、350 – 3000 nm の光を放射する。可視から近赤外領域の幅広い波長範囲の安定した光を得ることができる。一般的な寿命は約3,000時間である。
キセノンランプ (Xenon ; Xe)
キセノンガスのアーク放電を利用した放電型のランプで、185 – 2000 nmの光を放射する。1 つのランプで紫外から近赤外領域の光を得ることができ、高輝度なランプである。一般的な寿命は約2,000時間である。
キセノンフラッシュランプ (Xenon flash ; Xe)
極めて短い時間で光の放射を繰り返すキセノンランプで、109 回の点灯が可能である。測定時のみ点灯するため、長寿命で通電後の暖機時間が不要である。また、測定時以外は、サンプルに光が照射されないので、光退色性のあるサンプルの測定に適している。
2.2. モノクロメータ
モノクロメータは、スリットと分光部で主に構成されている。分光部には、回折格子 (Grating) が一般的に用いられており、光源からの多色光をそれぞれの波長の単色光に分光する。一般的な分光光度計では、1 台のモノクロメータを搭載しているが、2 台のモノクロメータを搭載した分光光度計もあり、分光精度および測光精度に違いがある。
回折格子による分光の原理
回折格子による回折原理の概略図を図 2 に示す。回折格子は、回折 (Diffraction) と干渉 (Interference) の二つの光の性質を利用して分光する。回折格子の表面には凹凸や溝が存在しており、光が入射するとその各ブロックにおいて回折が生じる。光の波長を λ [nm] 、入射角を θA 、反射角を θB 、各ブロックの間隔を d [nm] とすると次式を満たす波長 λ と反射角 θB の光が干渉により強め合った光として進んで行く。
図 2. 反射型回折格子による回折原理の概略図
シングルモノクロ型
シングルモノクロ型の光学系概略図を図 3 に示す。シングルモノクロ型は、1 台のモノクロメータが搭載されている分光光度計である。汎用的な分光に採用されており、コンパクトな光学系にまとめることができる。
図 3. シングルモノクロ型の光学系概略図
ダブルモノクロ型
ダブルモノクロ型の光学系概略図を図 4 に示す。ダブルモノクロ型は、2台のモノクロメータを直列に配置した分光光度計である。第一分光部で分光した光を第二分光部でさらに分光するため、迷光が低減されて分光精度が高くなる。
図 4. ダブルモノクロ型の光学系概略図
2.3. サンプル室
サンプル室は、測定目的および測定手法に応じたサンプルホルダおよびアクセサリを設置し、測定サンプルを設置する。また、ビーム方式の違いにより、測光精度および再現性に違いがある。
シングルビーム型
シングルビーム型の光学系概略図を図 5 に示す。シングルビーム型は、モノクロメータから出た 1 本の光がそのままサンプルに照射され、検出器に入射する。装置の構成が単純なため、安価でサンプル室を小型化することが可能であるが、ベースラインまたはブランクとサンプルを別々に測定しなければならないため、スペクトルのベースラインが安定しにくいなどの欠点がある。
図 5. シングルビーム型の光学系概略図
ダブルビーム型
ダブルビーム型の光学系概略図を図 6 に示す。ダブルビーム型は、モノクロメータから出た光をチョッパーなどでリファレンス光とサンプル光の 2 つに分岐し、それぞれの光が別々の光路でサンプル室に入射する。 2 つの光を用いるため、サンプル室が大型化するが、リファレンスとサンプルを一緒に測定することができる。これにより、光源の変動を補正しながら測定することができるため、スペクトルのベースラインが安定した精度の高い測定が行える。
図 6. ダブルビーム型の光学系概略図
2.4. 検出器
検出器は、サンプルを透過または反射した光を検出する。検出器ごとに、感度および波長範囲が異なるため、測定波長範囲に対応した検出器に切り替えて測定を行う。
光電子増倍管 (Photomultiplier tube ; PMT)
200 – 900 nm に感度を持つ検出器で、紫外から可視領域の測定に使用される。外部光電効果を利用しており、感度および直線応答性に優れている。
シリコンダイオード (Silicone diode ; Si)
200 – 1100 nm に感度を持つ検出器で、紫外から近赤外領域の測定に使用される。内部光電効果を利用しており、一般的な測定には十分な感度を持っており、低価格な検出器であるため、汎用的な分光光度計に用いられている。
InGaAs ダイオード (Indium gallium arsenide diode ; InGaAs)
800 – 1700 nm に感度を持つ検出器で、近赤外領域の測定に使用される。内部光電効果を利用しており、感度および直線応答性に優れている。
PbS 光導電素子 (Lead sulfide photoconductive element ; PbS)
1000 – 3500 nm に感度を持つ検出器で、近赤外領域の測定に使用される。光導電現象を利用しており、最も長波長領域まで感度を持っているため、長波長領域の測定が目的の場合に用いられる。
3. 分光光度計の測定パラメータ
分光光度計による測定では、いくつかのパラメータを設定する必要がある。これらのパラメータを理解することは、より良い測定結果を得るために必要となる。ここでは、主要なパラメータとそれらがデータに与える影響の概要を説明する。
3.1. 走査設定
走査設定で設定するパラメータは、得られる結果の精度や再現性および測定時間に影響を与える。主要な設定パラメータとパラメータが及ぼす影響の一覧を表 1 に示す。各パラメータによって与える影響が異なり、設定によっては有利になる点と不利になる点がある。不利になる点については、他のパラメータによって補うこともできる。
パラメータ | 設定 | 測定時間 | ノイズレベル | スペクトル分解能 |
---|---|---|---|---|
走査範囲 | 狭い | 短い | - | - |
広い | 長い | - | - | |
信号平均化時間 | 短い | 短い | 大 | - |
長い | 長い | 小 | - | |
データインターバル | 狭い | 長い | (大)※ | (高)※ |
広い | 短い | (小)※ | (低)※ | |
スペクトルバンド幅 | 狭い | - | 大 | 高 |
広い | - | 小 | 低 |
光学的には影響を及ぼさないがスペクトルの見た目として影響
表 1. 走査設定の主要パラメータと測定に与える影響
測定時間に関わるパラメータは、走査範囲と信号平均化時間とデータインターバルである。測定時間を短くするには、走査範囲を狭く、信号平均化時間を短く、データインターバルを広く設定すればよい。ただし、信号平均化時間を短く設定すると、ノイズレベルが大きくなるので、スペクトルバンド幅を広く設定することで補っても良い。
ノイズレベルに関わるパラメータは、信号平均化時間とスペクトルバンド幅である。ノイズレベルを小さくするには、信号平均化時間を長く、スペクトルバンド幅を広く設定すればよい。ただし、信号平均化時間を長く設定すると、測定時間が長くなるので、走査範囲を狭く設定するか、データインターバルを広く設定することで補っても良い。また、スペクトルバンド幅を広く設定すると、スペクトル分解能が低下するので、スペクトル分解能が重要な測定を行う場合には注意が必要である。
スペクトル分解能に関わるパラメータは、スペクトルバンド幅である。スペクトル分解能を高くするには、スペクトルバンド幅を狭く設定すればよい。ただし、スペクトルバンド幅を狭く設定すると、ノイズレベルが大きくなるので、信号平均化時間を長く設定することで補っても良い。
走査範囲 (Scan range)
測定目的および装置構成に応じた波長範囲を設定する。これにより、設定した波長範囲のスペクトルが取得される。あらかじめ着目する波長が決まっている定量分析などでは、着目する波長を設定し、その波長における測光値を取得する。
信号平均化時間 (Signal averaging time ; SAT)
1 波長の測光にかける時間を設定する。長い時間を設定するほど、全体の測定時間は長くなるが、測光値のばらつきが抑えられ、スペクトルのノイズは小さくなる。
データインターバル (Data interval)
スペクトルを取得する時に、測光する波長間隔を設定する。極大波長もしくは極小波長を厳密に測定したい場合には、このデータインターバルを短くして測定すると良い。
スキャン速度 (Scan rate)
平均化時間とデータインターバルを設定すれば一義的に決まる、単位時間 (分) 当たりに走査する波長のことである。
スペクトルバンド幅 (Spectral band width ; SBW)
モノクロメータのスリット幅を設定する。これにより、スペクトル分解能が制御される。スペクトルバンド幅を広く設定すると、スリット幅は広く制御される。この場合、スペクトル分解能は低下するが、光量が増加するため、スペクトルのノイズは小さくなる。スペクトルバンド幅を狭く設定すると、スリット幅は狭く制御される。この場合、スペクトル分解能は高くなるが、光量が減少するため、スペクトルのノイズは大きくなる。
3.2. 切替え波長
分光光度計の構成によっては、紫外領域と可視領域で光源を、可視領域と近赤外領域で検出器と回折格子を切り替える必要がある。
光源切り替え波長 (Source changeover)
紫外領域で使用する重水素放電管と、可視領域で使用するタングステン・ハロゲンランプを切り替える波長を設定する。一般的には、350 nm 前後で切り替えを行うが、測定目的に応じて、切り替え波長を変更する。キセノンランプのみを搭載する分光光度計では、紫外から近赤外領域までの光が照射されるため、切り替え波長を設定することはない。
検出器切り替え波長 (Detector changeover)
紫外可視領域で使用する光電子増倍管と、近赤外領域で使用する PbS または InGaAs 検出器を切り替える波長を設定する。一般的には、800 nm 前後で切り替えを行うが、測定目的に応じて、切り替え波長を変更する。シリコンダイオードのみを搭載する分光光度計では、紫外から近赤外領域までの感度を有しているため、切り替え波長を設定することはない。
回折格子切り替え波長 (Grating changeover)
紫外可視領域で使用する回折格子と近赤外領域で使用する回折格子を切り替える波長を設定する。波長の短い紫外可視領域の回折格子は、溝の本数が多く、回折効率が高くなるブレーズ波長が短波長領域にある仕様のものが用いられる。波長の長い近赤外領域の回折格子は、溝の本数が少なく、ブレーズ波長が長波長領域にある仕様のものが用いられる。
3.3. ベースライン
ベースラインを測定し、サンプルスペクトルを補正することにより、装置固有の分光特性を補正することができる。また、ベースライン測定時にリファレンス光を減光することで、高吸光度サンプルの測定を正確に行うことが可能となる。
100 %T ベースライン補正 (Baseline correction)
リファレンスおよびサンプルが無い状態でのスペクトルを取得し、得られたスペクトルをベースラインとして補正をする。透過率または反射率が極端に低くないサンプルの測定では、このベースライン補正が良く用いられる。補正式は、以下のとおりである。
0 %T / 100 %T ベースライン補正 (Zero baseline correction)
リファレンスおよびサンプルが無い状態でのスペクトルを取得し、さらにサンプル光を遮光した状態のスペクトルを取得し、それぞれのスペクトルをベースラインとして補正をする。透過率または反射率が極端に低いサンプルの測定では、このベースライン補正が有効である。補正式は、以下の通りである。
リファレンス光減光 (Rear beam attenuation ; RBA)
高吸光度サンプルを測定する場合に、リファレンス光を減光することで測光範囲が広がり、高い測光範囲の測定が可能になる。減光には、減光メッシュまたはフィルターを用い、これをリファレンス光側に設置してベースラインおよびサンプル測定を行う。
4. 分光光度計で測光される光
分光光度計で測光される光の概略図を図 7 に示す。分光光度計では、サンプルを透過した透過光もしくはサンプルで反射した反射光を主に測光する。それぞれの光は、その挙動によって、直接透過光 / 正反射光、拡散透過光 / 拡散反射光とさらに分類される。分光光度計による測定では、どのような光を測光したいのか、どのような光を測光しているのかが重要となる。ここでは、サンプルに入射した光とその挙動の概要を説明する。
図 7. 分光光度計で測光される光の概略図
4.1. 透過光 (Transmission light)
透過光は、入射光がサンプルを通過して裏面側に進む光である。入射光がそのまま直進してサンプルを通過する光を直接透過光 (Direct transmission light)、サンプル裏面で様々な方向に進む光を拡散透過光 (Diffused transmission light) と呼ぶ。また、両方の光を合わせて全透過光 (Total transmission light) とも呼ぶ。
4.2. 反射光 (Reflection light)
反射光は、入射光がサンプル表面で反射して進む光である。サンプル表面に立てた法線に対して入射光の角度と反射光の角度が同じ光を正反射光 (Specular reflection light)、サンプル表面で様々な方向に進む光を拡散反射光 (Diffused reflection light) と呼ぶ。また、両方の光を合わせて全反射光 (Total reflection light) とも呼ぶ。
さらに、入射光がサンプルを通過し、サンプル裏面で反射する光もあり、これを内部反射光と呼ぶ。内部反射光は、スペクトルに周期的なうねりとなる干渉縞 (フリンジ) の要因でもある。この干渉縞の周期は、サンプルの厚みに依存することから、膜厚測定に用いられる。
5. 分光光度計の測定手法とアクセサリ
分光光度計では、サンプル状態および測定目的に応じて、適切な測定手法とアクセサリを選択することが重要である。分光光度計での主な測定手法と、対象サンプルおよび使用するアクセサリの一覧を表 2 に示す。ここでは、分光光度計による測定手法とアクセサリの概要を説明する。
透過法 | 対象サンプル | 測定アクセサリ |
---|---|---|
直接透過測定 | 液体 | 液体セル |
拡散透過測定 | 固体 / 液体 | 積分球アクセサリ |
全透過測定 | 固体 / 液体 | 積分球アクセサリ |
反射法 | 対象サンプル | 測定アクセサリ |
相対反射測定 | 固体 | 相対反射アクセサリ |
絶対反射測定 | 固体 | 絶対反射アクセサリ |
拡散反射測定 | 固体 | 積分球アクセサリ |
全反射測定 | 固体 | 積分球アクセサリ |
応用測定法 | 対象サンプル | 測定アクセサリ |
定量測定 | 固体 / 液体 | 手法に応じたアクセサリ |
温調測定 | 液体 | 温調アクセサリ |
時間分解測定 | 液体 | 手法に応じたアクセサリ |
角度可変測定 | 固体 | 手法に応じたアクセサリ |
偏光測定 | 固体 | 偏光子 / 偏光解消子 |
ヘイズ測定 | 固体 | 積分球アクセサリ |
表 2. 主な測定手法と対象サンプルおよび測定アクセサリの一覧
5.1. 測定手法
分光光度計での主な測定手法は、透過法と反射法である、また、これらの測定手法をベースとした応用測定法がある。それぞれの測定手法の概要を以下に示す。
透過法
直接透過光や拡散透過光および全透過光を測光し、任意波長範囲のスペクトルおよび特定波長の測光値を取得する。得られた結果より、サンプルの化学特性評価や定量および光学特性評価を行うことができる。サンプルの入射光の強度 I0 と透過光の強度 I により、透過率 T (%) は図 8 のように定義される。
図 8. 透過率の定義
直接透過測定
図 9. 直接透過測定の概略図
入射光がサンプルを透過し、サンプル裏面側に直進した直接透過光を測光する。液体サンプルでは、液体セルを使用し、固体サンプルでは、固体サンプルホルダを用いて測定する。
拡散透過測定
図 10. 拡散透過測定の概略図
入射光がサンプルを透過し、サンプル裏面で様々な方向に進む拡散透過光を測光する。測定には、積分球アクセサリを用い、直接透過光をライトトラップで測光しないようにして、拡散反射光のみを測光する。
全透過測定
図 11. 全透過測定の概略図
直接透過光および拡散透過光を合わせた全透過光を測光する。測定には、積分球アクセサリを用い、サンプルを透過したすべての透過光を測光する。
反射法
正反射光や拡散反射光および全透過光を測光し、任意波長範囲のスペクトルおよび特定波長の測光値を取得する。得られた結果より、サンプルの化学特性評価や定量および光学特性評価を行うことができる。サンプルの入射光の強度 I0 と反射光の強度 I により、反射率 R (%) は図 12 のように定義される。
図 12. 反射率の定義
相対反射測定
図 13. 相対反射測定の概略図
リファレンスにおける反射光に対する測定サンプルの反射光の比率を反射率として求める。リファレンスの反射率を 100 % としてサンプルの反射率を求めるので、リファレンスの反射率が変わると、測定サンプルの反射率も変わる。測定には、相対反射アクセサリを用いる。
絶対反射測定
図 14. 絶対反射測定の概略図
光源からの全光量に対する測定サンプルの反射光の比率を反射率として求める。リファレンスを使用せずに測定をするので、得られる反射率は、測定サンプルが持つ反射特性を示す。測定には、絶対反射アクセサリを用いる。
拡散反射測定
図 15. 拡散反射測定の概略図
入射光がサンプル表面で反射し、様々な方向に進む拡散反射光を測光する。測定には、積分球アクセサリを用い、正反射光をライトトラップで測光しないようにする。粉末サンプルの場合、サンプルカップに充填したサンプルに光を照射し、サンプルによって拡散された光を測光する。
全反射測定
図 16. 全反射測定の概略図
正反射光および拡散反射光を合わせた全反射光を測光する。測定には、積分球を用い、サンプルで反射したすべての反射光を測光する。
応用測定法
透過法及び反射法をベースに、以下の応用測定を行うことができる。
定量測定
まず、濃度既知の標準サンプルを測定し、任意波長の吸光度を基に検量線を作成する。次に、濃度未知のサンプルを測定し、任意波長の吸光度を検量線に適用することで、サンプルの濃度を求めることができる。
一定の光路長における測定サンプルの吸光度と濃度には比例関係があり、ランベルト・ベールの法則により、図 17 のように定義される。
図 17. 吸光度の定義
温調測定
図 18. 温調測定例
温度によってスペクトル形状や吸光度が変化するサンプルを測定する場合に、温調機能を持ったサンプルホルダを組み合わせて測定を行う。温調は、恒温水循環装置またはペルチェを用いて行い、セルブロック温度またはサンプル温度を直接モニターして温度制御を行う。
時間分解測定
図 19. 時間分解測定例
時間によってスペクトル形状や吸光度が変化するサンプル、例えば、反応試薬の添加後や温度などにより変化をするサンプルを測定する場合に、時間分解測定に対応したプログラムを用いて測定を行う。測定には、サンプル状態および測定の目的に応じたアクセサリを組み合わせて行う。
角度可変測定
図 20. 角度可変測定例
入射角度によってスペクトルや吸光度が変化するサンプルを測定する場合に、サンプルの角度を変えることのできるアクセサリを組み合わせて測定を行う。主に、入射角度依存性のある、固体サンプルの分光特性評価に用いられる。
偏光測定
図 21. 偏光測定例
入射光の偏光によってスペクトルや吸光度が変化するサンプルを測定する場合に、偏光子を組み合わせて測定を行う。入射面 (入射光が成すサンプル表面に垂直な面) に対して垂直に振動する偏光を S 偏光、平行に振動する偏光を P 偏光と呼ぶ。また、偏光解消子を組み合わせると、様々な偏光から成る光であるランダム偏光を得ることができる。
ヘイズ測定
サンプルの拡散性評価にはヘイズと呼ばれる指標を用いる。ヘイズとは全光線透過光に対する拡散透過光の割合を表したもので、入射光 (T1) 、全光線透過光 (T2) 、装置散乱光 (T3) 、試料散乱光 (T4) を測定後、以下の式で与えられる。
5.2. 測定アクセサリ
分光光度計で使用する主な測定アクセサリとその概要について以下に示す。
セル
液体サンプルの測定において、最もよく用いられるアクセサリである。サンプル量や濃度および測定目的に合わせて、適切な材質、形状、容量、光路長のものを選択する。セルの材質および波長範囲を表 3 および図 22 に示す。
材質 | 波長範囲 [nm] | |
---|---|---|
光学ガラス | Optical Glass; OG | 360 - 2500 |
ホウケイ酸ガラス | Borosilicate Glass; BF | 330 - 2500 |
特殊光学ガラス | Special Optical Glass; OS | 320 - 2500 |
石英ガラス | Quartz Glass; UV | 260 - 2500 |
高性能石英ガラス | Quartz Glass High Performance; QS | 200 - 2500 |
広域石英ガラス | Quartz Glass Extended Range; QX | 200 - 3500 |
表 3. セルの材質と波長範囲
図 22. セルの材質による透過率特性
反射アクセサリ
サンプルの正反射光を測光するためのアクセサリで、相対反射アクセサリと絶対反射アクセサリがある。汎用的なアクセサリでは、入射角度が固定されているため、測定の目的に応じた入射角度のアクセサリを使用する必要がある。
これに対して、サンプルの角度を変えることにより、入射角度を制御する角度可変アクセサリもある。ソフトウエアで目的の入射角度を設定すると、サンプルの角度が制御され、様々な角度における測定を連続して行うことができる。
固定角正反射アクセサリ / VW 絶対正反射アクセサリ / 多角度可変自動測定アクセサリ
積分球アクセサリ
全透過光や全反射光、拡散透過光や拡散反射光を測光するためのアクセサリで、硫酸バリウムなどで内部がコーティングされた球が組み込まれている。積分球は、入射開口と反射開口と検出器で主に構成されており、サンプルを透過または反射した光を積分球内で捕え、検出器で測光する。積分球の概略図を図 23 に示す。
図 23. 積分球の概略図
偏光子 / 偏光解消子
偏光子は、特定の方向に振動する光のみを選択的に透過させる光学素子である。サンプルの偏光特性を評価する場合は、モノクロメータとサンプルの間に偏光子を配置して測定する。
これに対して、偏光解消子は、偏光した光をランダムな偏光状態にする光学素子である。ランダム偏光を入射光とする場合は、モノクロメータとサンプルの間に偏光解消子を配置して測定する。また、偏光特性のあるサンプルを測定する場合は、サンプルと検出器の間に配置して測定する。
温調アクセサリ
サンプルを加熱または冷却するアクセサリで、恒温水循環式とペルチェ式がある。恒温水循環式は、恒温槽で温度制御された循環水をセルホルダなどに循環させて温調する。ペルチェ式は、セルホルダなどにペルチェが組み込まれており、ペルチェを制御して温調をする。
温度モニターは、セルブロックまたはセルに挿入したセンサープローブで行う。セルホルダには、撹拌機能が備えられており、セル内に撹拌子を入れて回転させることで、サンプル温度を均一にすることができる。