脂肪の多い食品や複雑な生物マトリックス中の微量残留物を測定するラボにとって、脂質は大きな弊害となります。脂質は、機器やカラム内に蓄積し、機器のメンテナンス頻度の増加やカラム寿命の低下につながります。また、脂質によるマトリックス干渉やイオン抑制により、分析対象物の感度や選択性が低下することもあります。
脂質除去の必要性が十分に理解されているとはいえ、現行のメソッドでは、脂質除去の際にターゲット化合物も失われ、分析対象物の回収率が犠牲になることも珍しくありません。Agilent Bond Elut Enhanced Matrix Removal-Lipid (EMR-Lipid) は、最高レベルの脂質除去効率と分析対象物の高い回収率を両立できる革新的なサンプル前処理製品です。もう、脂質除去と回収率のどちらを優先するかを選ぶ必要はありません。
EMR-Lipid は、複雑で分析困難な高脂質サンプルマトリックス中の脂質を選択的に除去するアジレント独自の吸着剤です。現行のメソッドで共抽出されるマトリックス中の脂質成分を、分析対象物の回収率を低下させることなく高い確率で吸着できるため、特に脂質の多いサンプルに最適です。さらに、より明確なサンプルプロファイルが得られ、サンプルに関連するトラブルシューティングの必要性も軽減されます。サンプルがクリーンなほど、機器に必要なメンテナンスやダウンタイムが減ります。また、より多くのコストを削減し、ラボの生産性を高めることができます。
EMR-Lipid がサンプル分析時の分析対象物の損失を解消
特に高感度質量分析計を使用する場合には、分析対象物を失うことなく、サンプルから脂質を効率的に除去することが重要になります。LC/MS および GC/MS を使用した分析の真度、再現性、精度、および低濃度成分の定量性能は、EMR-Lipid プロトコルを用いることで格段に高まります。また、MS に導入されるマトリックス量が低減し、それに伴ってメンテナンスも軽減されるため、特に高マトリックスサンプルのルーチン分析を行うラボにとって有益です。これらの利点は、規制モニタリングプログラムで一般的になりつつある、複数の化合物群の残留物を扱うアプリケーションにおいて顕著に現れます。
図 1. Agilent Bond Elut Enhanced Matrix Removal-Lipid プロトコルと従来のプロトコルによる特定分析対象物の回収率の比較(図を拡大)
肝臓から動物用医薬品を容易に抽出
最適化された Agilent Bond Elut EMR-Lipid メソッドと、C18/PSA 分散SPE およびジルコニア系吸着剤によるクリーンアップを用いた従来の QuEChERS メソッドを比較しました。図 1 は、ウシ肝臓から抽出した動物用医薬品のうち、脂質の影響を受ける特定成分を比較したものです。最適化された EMR-Lipid プロトコルでは、特にジルコニア系吸着剤を用いたメソッドに比べ、脂質の影響を受ける分析対象物の回収率と精度が格段に向上しています。EMR-Lipid を使用した場合、ほぼすべて (93 %) の分析対象物の回収率が 70~120 % でした。これに対し、従来の QuEChERS プロトコルとジルコニアプロトコルで 70~120 % の回収率が得られたのは、分析対象物のそれぞれ 80 % と 55 % に留まりました。特に、ジルコニアを用いたメソッドでは、フルオロキノロン類およびテトラサイクリン類に対して低い回収率が示されました。このように、Agilent Bond Elut EMR-Lipid では、C18 による 分散SPE およびジルコニアを用いたメソッドより格段に優れた結果が得られました。
この例では、Agilent 1290 Infinity II LC、6490 トリプル四重極 LC/MS、および Poroshell 120 EC-C18 カラムで構成される Agilent LC/MS システムを使用しました。詳細については、アジレントアプリケーションノート 5991-6096JAJP をご覧ください。
図 2. Agilent Bond Elut EMR-Lipid ワークフローを用いて分析したアボカド中の代表的な 44 種類の農薬の回収率。真度および精度のデータは、3 種類の濃度で合計 18 回繰り返し分析して得られた測定値にもとづいて計算しています。(図を拡大)
図 3. QuEChERS AOAC による抽出後、Agilent Bond Elut Enhanced Matrix-Lipid (赤)、ジルコニア系吸着剤 (緑)、または PSA/C18 (青色) による 分散SPE を用いて前処理した場合と、クリーンアップなし (黒) の場合のアボカドマトリックスブランクの GC/MS フルスキャンクロマトグラムの重ね表示(図を拡大)
LC/MS による農薬分析で優れた再現性を実現
アボカドも、抽出時に問題が生じやすい高脂質マトリックスです。アボカドについても LC/MS での分析前に Agilent Bond Elut EMR-Lipid を使用することで、44 種類の農薬を抽出することができました (図 2)。2,4-D およびシプロジニルについては良好な RSD での回収率が 70 % をわずかに下回りましたが、44 種類の農薬の 95 % では 70~120 % の範囲内にあることがわかります。また、再現性についても、5 ng/g では農薬の 91 %、50 ng/g では 100 %、200 ng/g では 98 % で RSD が 10 % 未満 (n = 6) というきわめて優れた結果が得られました。
この分析は、同じ Agilent LC/MS システムに ZORBAX RRHD Eclipse Plus C18 カラムを使用して実施しました。詳細については、アジレントアプリケーションノート 5991-6098JAJP をご覧ください。
GC/MS 機器の農薬分析性能を高める
Agilent Bond Elut EMR-Lipid は、GC/MS 分析前に用いても同様の効果が得られます。この例では、Agilent GC システムと Agilent 7890 GC、Agilent 7000C トリプル四重極 GC/MS、および Agilent J&W DB-5ms ウルトライナートカラムを使用しました。図 3 は、アボカドマトリックスブランクの GC/MS フルスキャンクロマトグラムと、Agilent Bond Elut EMR-Lipid、C18/PSA、およびジルコニア系吸着剤でクリーンアップした場合のクロマトグラフィープロファイルを重ね合わせたものです。クリーンアップなしのサンプルのクロマトグラム (黒) では、ターゲット化合物の分析の妨げになるマトリックス干渉のアバンダンスが高くなっています。C18/PSA (青) およびジルコニア系吸着剤 (緑) で処理した抽出物のクロマトグラムでは、それぞれ 36 % および 55 % のマトリックスが除去されています。一方、EMR-Lipid 分散SPE を用いたクロマトグラム (赤) では、これらの干渉物がほぼベースラインレベルにまで除去され、マトリックスの 95 % が除去されています。
このデータは、Agilent Bond Elut EMR-Lipid の優れたクリーンアップ性能を示しています。機器の性能に影響を与えるサンプル中のマトリックスが格段に減少したことが、アボカド中の農薬の分析結果に明らかに影響しています。また、EMR-Lipid による単純な 分散SPE 手順を用いた従来の QuEChERS ワークフローでの抽出も可能です。
アジレントの優れたサンプル前処理製品
ここで紹介した実験では、分散SPE 吸着剤として Agilent Bond Elut EMR-Lipid を用いた場合の優れたクリーンアップ性能が実証されました。このソリューションは、ワークフローを高速化するアジレントの革新的なサンプル前処理製品の 1 つに過ぎません。現在ご利用いただけるその他のソリューションもぜひご覧ください。