幹細胞研究で活躍するゲノミクスツール 第2回

Stem Cell Vol. 2

iPS 細胞の性質の確認に
アジレント遺伝子発現マイクロアレイが
利用されています。

 

1.iPS細胞の樹立、改良および機構解明

2006年にマウス(1)、2007年にヒト由来の iPS 細胞(2)が相次いで樹立された当初から、アジレント遺伝子発現マイクロアレイは ES 細胞との網羅的な遺伝子発現の類似性(下図左)や、 マーカー遺伝子の発現の確認に使われています。

iPS 細胞の樹立後、 より効率よく質の高い iPS 細胞の作製方法が模索され改良研究が進み、 その際にもアジレント遺伝子発現マイクロアレイが使用されています。 例えば Seki らは末梢血由来のヒト終末分化循環 T 細胞から、温度感受性センダイウイルスベクターを用いて山中4因子(OSKM:OCT3/4, SOX2, KLF4 および c-MYC)を導入し TiPS を樹立し、iPS 細胞や ES 細胞との類似性を Whole Human Genome マイクロアレイを用いて確認しました(3)。 また Maekawa らは3種の転写因子 "OSK"(OCT3/4, SOX2 および KLF4)および Glis1 で iPS 細胞を樹立し、 OSK と c-MYC(OSKM)で作製した iPS との比較にアジレント遺伝子発現マイクロアレイを利用しています(4)(下図右)。

マイクロアレイを用いた類似性の検証

左図: 2007年のヒト iPS 樹立の際は iPS 細胞と ES 細胞の類似性が比較されました(GSE9561 および GSE7902)。
右図: 2011年に報告された OSK+Glis1 で樹立された iPS 細胞と OSKM で樹立された iPS 細胞との類似性が比較されました(GSE26431)。

GEO に登録された各データを弊社解析ソフト GeneSpring にて表示。 軸:log10

 
一方、 実用レベルから考えると体細胞からの iPS 細胞の作製効率は低く改善が必要なため、iPS 細胞になる機構解明を含め基礎研究・探索研究が進んでいます。 Tanabe らは HDF (Human dermal fibroblast) に OSKM を導入後、幹細胞マーカーとともに遺伝子発現の経時変化を SurePrint G3 Human 遺伝子発現マイクロアレイなどで解析し、その結果、約 20% の細胞で初期化が開始されるものの、その後多くの細胞は iPS 細胞よりも HDF の発現挙動に近くなる'逆戻り現象'が起きていることが判明しました(5)。 また Di Stefano らのマウス B 細胞を用いた研究では、OSKM 誘導前に C/EBP (CCAAT/enhancer binding protein-) を一時的に発現させることで、通常よりも早く iPS 細胞や ES 細胞の発現挙動に近くなることが SurePrint G3 Mouse 遺伝子発現マイクロアレイを用いて報告されています(6)。このように初期化が始まる過程が明らかになりつつあります。
 

2.iPS細胞の質の評価

iPS 細胞を応用研究に利用するには、質の高い iPS 細胞が求められます。Koyanagi-Aoi らは未分化マーカーを指標に分化効率の低い iPS 細胞 (Defective 細胞) と高い iPS 細胞 (Good 細胞) に分類し、それぞれの発現挙動を Agilent SurePrint G3 Human 遺伝子発現マイクロアレイで比較しました。その結果、 特定のトランスクリプトについて Defective iPS 細胞は LTR7 領域の下流で発現が上昇していることが判明しました(7)。今後は iPS 細胞の質を遺伝子発現マイクロアレイで迅速に評価できることが期待されます。

論文で報告されたトランスクリプトの1つ、HHLA1 の発現挙動
GSE42445 の一部データを弊社解析ソフト GeneSpring にて表示。 軸:log10

このように、アジレント遺伝子発現マイクロアレイは iPS 細胞の作製や
評価・検討の研究においても広く使用されています。
 
論文リスト
Journal Year Volume  Page  Author 
(1)Cell 2006 Aug 25 126(4) 663-76 Takahashi K., Yamanaka S
(2)Cell 2007 Nov 30 131(5) 861-72 Takahashi K. et al.
(3)Cell Stem Cell 2010 Jul 2 7(1) 11-4 Seki T. et al.
(4)Nature 2011 Jun 8 474(7350) 225-9 Maekawa M. et al.
(5)Proc Natl Acad Sci USA 2013 Jul 23 110(30) 12172-9 Tanabe K. et al.
(6)Nature 2014 Feb 13 506(7487) 235-9 Di Stefano B. et al.
(7)Proc Natl Acad Sci USA 2013 Dec 17 110(51) 20569-7 Koyanagi-Aoi M. et al.
上記以外にも、iPS細胞研究におけるアジレントの遺伝子発現マイクロアレイを使った論文がございます。
論文リストをご希望の方は、下記より入手いただけます。