分析用 GC カラムでキャリアガスを逆流させるというバックフラッシュの原理は、40 年以上にわたってその妥当性が支持されています。しかし、実際の分析への応用という点では、ここ 10 年でようやく確立されたにすぎません。バックフラッシュ手法をうまく導入するための鍵は、低熱量での装置の微細加工と不活性化を可能にする新技術でした。
バックフラッシュ手法が重視されるのは、リテンションタイムの変動、不確実な定量、マトリックス干渉に起因するスペクトル品質の悪化、分析カラムへの化合物の蓄積といったクロマトグラフィおよび質量分析上の問題を軽減できるためです。そのほかのバックフラッシュの利点としては、分析時間の短縮、カラム寿命の延長、質量分析計のイオン源メンテナンスの頻度低下などがあります。
図 1. ここに示すミッドカラムのバックフラッシュ構成により、分析カラムへのサンプルマトリックスの蓄積に伴う問題が排除されます(図を拡大)。
図 2.キヌレニン分析のクロマトグラムは、信頼性の高いクロマトグラフィ結果を示しています。同時バックフラッシュにより、メソッドの堅牢性が向上します (図を拡大)。
図 3.バックフラッシュにより、34 回のマトリックス注入後でも、RMS ノイズが最小限に抑えられました (図を拡大)。
困難なサンプルも簡単に分析
バイオ分析や環境、食品安全性試験サンプルなどの複雑なマトリックスに含まれる微量物質の分析は、クロマトグラフィおよびスペクトル干渉の影響をしばしば受け、データの正確性や精度が低下します。メリーランド大学およびジョン・ホプキンス大学医学部の研究者による研究では、正常なラットと異常のあるラットの脳に含まれる細胞外キヌレニンおよび代謝物の微量 GC/MS/MS 分析において、そうした問題が生じました [1]。
この分析では、メソッド開発段階でリテンションタイムの変動が観察されたほか、カラムメンテナンスの必要性が過剰に生じ、メソッドの堅牢性も十分ではありませんでした。そこで、中央に配したパージド不活性ユニオンで 2 つの分析カラムを接続し、ミッドカラムのバックフラッシュを導入したところ、そうした問題が排除されました(図 1)。また、データ採取と同時にバックフラッシュをおこなうことで、分析時間が大幅に短縮されました。
図 2 は、ミッドカラムの同時バックフラッシュにより、優れたクロマトグラフィ結果が得られたことを示しています。これらの結果は、以下の装置により得られたものです。
この例では MS 検出を用いていますが、バックフラッシュの導入は、あらゆる GC/検出器システムで効果を発揮します。
ミッドカラムのバックフラッシュにより、キノリン酸とキヌレニンについて、相対標準偏差 (n = 34) 0.030 % および 0.024 % という優れたリテンションタイム精度が得られました。34 回のマトリックス注入後も、RMS ノイズの上昇は 0.67 にとどまりました (図 3)。ラット脳透析物サンプル中のキヌレニン代謝物全体の検出下限については、低ナノモル範囲で高い再現性が得られました。これらの結果は、バックフラッシュによりカラムへのマトリックス蓄積が緩和され、クロマトグラフィデータ品質全体でプラスの効果が得られたことを示しています。
分析上の難問を解消するバックフラッシュ
組織、果実および野菜抽出物、下水処理施設の汚泥などの複雑なマトリックスの分析では、分析システムが大きな難問に直面します。これらのサンプルでは、マトリックスの蓄積により、カラム相の選択性が変化することがあります。その結果、定量の正確性や精度が低下し、検出器メンテナンスの頻度が増加します。
プレカラム、ミッドカラム、ポストカラム構成で分析システムにバックフラッシュを追加すれば、そうした問題を排除することが可能です。バックフラッシュは、データ解析と同時にも、解析後にも実施できます。分析困難なサンプルでは、バックフラッシュにより、リテンションタイム精度やスペクトル品質、定量精度が向上します。分析時間の短縮、カラム寿命の延長、検出器メンテナンスの低減といった利点も得られます。
キャピラリカラムバックフラッシュの基本概念の詳細については、こちらの役立つビデオをご覧ください。
Reference