近年、ヘリウムを使用する業界の多くは、コストの上昇や供給の中断、不安定化などの問題に直面しています。そうした問題の一部は短期間で解消されるケースもありましたが、ヘリウムが限られた資源であることは変わらず、需要の増加により、コストの上昇と供給の不安定化が続くと予想されます。ヘリウムはキャピラリ GC および GC/MS アプリケーションのキャリアガスとしてきわめて広く用いられているため、分析をおこなう人にとって、この新たな現実は大きな懸念材料になっています。アジレントの自動ヘリウム節約機能は、ヘリウムの不足に左右されずにラボの業務を維持するためのソリューションです。
ヘリウム供給の減少に対応するために、ガスクロマトグラフィ分析では、水素や窒素などの代替ガスへの変更が検討されています。これらのガスは多くの GC アプリケーションに対応できますが、最大の障壁は、メソッドの再バリデーションの必要が生じることです。キャリアガスを変えると、動作条件、データ解析、統計的 QA/QC などに影響が出ます。また、多くのラボでは、信頼性の高いメソッドを再バリデーションするための時間や専門知識がありません。
時間と費用のかかる再バリデーションをおこなわずにヘリウムを節約
では、ヘリウムをめぐる新たな現実に対応し、メソッドの再バリデーションを避けるには、どうすればいいのでしょうか?簡単な答えは、節約対策を導入して、よりスマートな方法でヘリウムをキャリアガスとして使い続けることです。このアプローチにより、現在のヘリウム供給量の持続期間を延ばし、業務コストを削減し、ビジネスの継続性を確保することができます。
ヘリウムキャリアガスは、比較的簡単な方法で節約できます。サンプルを分析していないとき、GC および GC/MS 機器は動作モードに保たれています。このとき、加熱ゾーンの温度が維持され、不活性キャリアガスがシステムを流れています。この動作状態が、ヘリウムの無駄の大きな要因になっています。機器が分析をおこなっていないときには、窒素などのもっと安くて豊富なキャリアガスに変更するほうが効率的です。
窒素シリンダーを近くに設置し、1 日の終わりにポンプで GC に送り込むことも可能ですが、この方法は時間がかかるうえに、Agilent GC および GC/MS システムに内蔵されているスマートな自動化機能の利点を活用できません。より効果的なアプローチは、切り替え装置を用いて、ヘリウムまたは窒素を GC フローコントロールモジュールに送ることです。ソフトウェアコントロールにより、スイッチと GC ハードウェアをシームレスに統合すれば、自動かつプログラム可能なヘリウム節約機能を、GC または GC/MSシステムの日々の作業に組み込むことができます。
図 1. Agilent 7890Bに搭載されたキャリアガス切替スイッチを使用することで、GC 分析を行っていないときにキャリアガスがヘリウムから窒素に自動的に切り替えられます。(図を拡大)
図 2. キャリアガス切替スイッチを使用すれば、必要な場合にのみヘリウムがシステムに流れるようになるため、ヘリウムの無駄な消費が最小限に抑えられます。(図を拡大)
内蔵モジュールにより節約を自動化
自動ヘリウム節約機能は、最近導入されたキャリアガス切替スイッチを用いて、新しい Agilent 7890B GC および 5977A シリーズ GC/MSD で利用することができます。この新しいモジュールは、アジレントの定評ある第 5 世代の補助エレクトロニックニューマティクスコントロール (EPC) をベースにしたもので、GC ハードウェアに内蔵されています。図 1 に、キャリアガス切替スイッチのコンポーネントを示しています。第 1 ガスソース (ガスシリンダーまたはラボ内供給源) から、ヘリウムと窒素の両方をモジュールに送り込みます。このモジュールでは、EPC の 2 チャンネルを用いてヘリウムと窒素を切り替え、それぞれを GC の注入口へ供給します。第 3 のチャンネルが、モジュール内部の配管をパージし、システムに送られるキャリアガスの純度を保ちます。
図 2 に、キャリアガス切替スイッチの動作図を示しています。ヘリウム節約モードでは、窒素圧が 70 psig に設定され、ヘリウム圧が 0 psig になるため、窒素キャリアガスが GC 注入口 EPC モジュールに送り込まれます。ヘリウム動作モードでは、窒素圧が 0 psig に下がり、ヘリウム圧が 80 psig に上昇し、ヘリウムのフローが再開します。パージベントは 10 psig に設定され、GC インレットへ供給されるヘリウムから、残留している窒素を除去します。
シンプルな GC 構成では、わずか 15 分程度で、GC 内のフローパスからすべての窒素を完全に除去することができます。GC/MS システムの場合、ヘリウム動作モードに切り替えてから 20 分以内に、質量スペクトルチューンが窒素バックグラウンドテストに合格します。
<注記>システム構成やアプリケーションによっては、さらに時間を要する場合があります。
Agilent 7890B GC の新しいスリープ/ウェイク機能により、キャリアガス切替スイッチの動作が完全に自動化されます。窒素をキャリアガスとして使うスリープメソッドと、ヘリウムをキャリアガスとして使うウェイクメソッドを作成し、保存することが可能です。分析をしていないときにはスリープメソッドをロードするように、7890B GC を設定することができます。これにより、アイドリング中のヘリウムの無駄な消費を避けられます。作業開始直前にウェイクメソッドをロードするように設定すれば、GC システムで準備が万全に整い、サンプル分析を待機できます。
ヘリウム消費量を大幅に削減
新しい Agilent OpenLab CDS ソフトウェアを使えば、多くのスリープ/ウェイクプログラムを設定することができます。動作の仕組みは、プログラム可能な家庭用暖房システムとよく似ています。一般的なキャピラリ GC メソッドの場合、キャリアガス切替スイッチとスリープ/ウェイク機能を使えば、ヘリウムガスが 3~5 倍長もちします。高流速 GC メソッドの場合、7890B ガスセーバーモードにキャリアガス切替スイッチとスリープ/ウェイク機能を組み合わせれば、最大 20 倍もヘリウムを長もちさせることができます。こうした節約により、メソッドの再バリデーションをおこなわなくても、ガス不足によるシャットダウンを心配せずに、ヘリウムキャリアガスを使いつづけることが可能になります。
ヘリウム消費量の削減についての詳細は、アジレントのウェブページをご確認ください。